脂質異常症(高脂血症)

内容
【はじめに】

1 食餌由来の脂質
2 VLDLとLDLの代謝
3 HDLの代謝
4 コレステロールの流れ
5 コレステロールの代謝
6 トリグリセリドの代謝
7 脂肪酸のβ酸化
8 ケトン体の生成
9 脂質異常症(高脂血症)の分類
10 善玉コレステロールと悪玉コレステロール
11 糖尿病を例にとり、粥状動脈硬化発症の機序を考える


はじめに
 五、六十年前までの日本人の食生活に占める食材は、米、味噌汁、納豆、漬物、魚介類(干物と生鮮類)、野菜、豆腐などではないだろうか。今のところ、筆者にはこれ以上思いつかない。これらの食材にはコレステロールや中性脂肪が極めて少ないと云うか無いに等しい。例外的にスルメや生イカにコレステロールが多く含まれているものの、毎日これらを大量に食べるヒトはそうそういまい。筆者の経験では、新年に数の子を食し、回転寿司屋でイクラを食べ、居酒屋でししゃもやスルメを食べる場合があるが、これらの食材には確かにコレステロールや脂肪が多い。しかし、毎日食すると云う訳でもなく、たかが知れている。何ほどでもあるまい。
 ところが、戦後、高度経済成長期から現在まで1ドル360円が100円程度と円の対外的な価値が上昇したため、外国から多くの食材が相当安価に入手出来るようになった。従来の日本には少なく、外国から輸入する食材は主に肉や乳製品など脂肪を多く含んでいる。日本人は縄文時代を入れると数万年、歴史上は二千年近く、脂肪が極端に少ない食生活を続けてきた。しかし、この五、六十年の間に急速に脂肪の多い食習慣になった。その結果が「脂質異常症」の急増である。本疾患は戦前までは少なかったと推測されるが、今ではこの病態が心筋梗塞や脳梗塞に直結することはほとんどの方がご存知である。現在、脂質異常症および境界領域の潜在患者を含めると、2,200万人もいることが平成12年の厚生労働省の調査によって明らかにされている。高血圧や糖尿病は、一般に怖い病気だと受け止めているヒトは多いと思う。しかし、脂質異常症の場合、自覚症状が無いためか意外にも本疾患を怖がっている方が少ない。合併症の危険から言えば所詮はどれも同じである。自覚症状が少ない分、脂質異常症の方が怖いかも知れない、と脅しておかねばなるまい。

 痛みもなく、痒みもなく、それでも深く静かに進行する脂質異常症。健康診断で、いやー、コレステロールが高く出てね、とか今回は中性脂肪が多いみたいだ。まいった、まいった、と苦笑しているあなたにある日突然襲ってくる心筋梗塞、狭心症や脳梗塞。一度、このような症状が出たら、もう一生、ひび割れた陶器を壊さないように丁寧に持ち歩くが如く、一日の大半が心臓に気を使う生活にならざるを得ない。全ては心臓のケアを中心に生活が続く。これこそが脂質異常症の怖さである。後述するが、心臓に酸素と栄養を供給している冠状動脈が動脈硬化となった場合、その動脈硬化がガン細胞のように徐々に大きく成長して心筋梗塞を発症するかと云うと、必ずしもそうではなく、わずかな動脈硬化でも心筋梗塞を発症することが明らかにされつつある。健康診断で脂質異常症のため再検診を勧めると出ても、今忙しいから後で再検診してもらおうと思いつつ、ついつい忘れがちで後回しになり、気がついたら救急車で病院に運ばれる運命にあるのも脂質異常症の怖さであろう。脅かしすぎただろうか。
 全般的に考えて、脂質の代謝あるいは脂質の生化学は非常に複雑であり、理解するのは正直言って難しい。しかし、脂質を理解できずに脂質異常症、メタボリックシンドローム、糖尿病あるいはこれらの疾患による合併症を理解することも困難である。絶対に避けて通れない厄介な項目である。筆者自身どこまで理解しているか心もとないが、出来るだけ図を用いて説明したい。昔から溶け合わない代表的な例として「水」と「油」が使われる。そりが合わないと云うか性格的な不一致などにも「水」と「油」の関係とか日常的に使用されるほどである。脂肪(中性脂肪やコレステロール)は油である。脂肪は水に溶けないで、クロロホルム、エーテル、ベンゼンなどに溶ける。しかし、当然ながら生体内にはクロロホルムなどは無い。血漿成分はほとんど水である。では、脂肪が血液中を運搬される場合はどうなっているのか。リン脂質という水に溶ける球状の膜の中に脂肪を入れて脂肪が運ばれる。では、水に溶けるとはどういうことかと云うと、水に溶けるとは水分子(H20)と水素結合をすることである。脂肪は水の中で水分子と水素結合が出来ないので、脂肪の周りに水分子が水素結合をしない状態で集まっているに過ぎない。リン脂質によってできた球状の膜は水と水素結合できるので、リン脂質の膜の中にコレステロールや中性脂肪を入れ運ばれることになる。
 以下、次の粒子群が頻繁に登場するので、簡単にまとめる。
カイロミクロン(chylomicron:食餌からのトリグリセリド(中性脂肪)を多く含み、末梢組織へこれを運ぶ。コレステロールは少ない。
VLDLvery low density lipoprotein:肝細胞において合成されたトリグリセリドを多く含み、末梢組織へこれを運ぶ。コレステロールは少ない。
LDLlow density lipoprotein:コレステロールを最も多く含み、末梢組織へこれを運んだ後、肝臓に取り込まれる。
HDLhigh density lipoprotein:コレステロールを多く含み、末梢組織からコレステロールを肝臓へ輸送する。
1 食餌由来の脂質  本ページの先頭へ
 食餌由来の脂質の流れを追って見る。脂質は、口腔、胃では消化されず、十二指腸まで運ばれてここで消化・吸収される(胃では、不溶性の脂肪滴を小さくする。また、胃リパーゼもあるが、ここでは触れない)。その過程を追ってみる。脂質が十二指腸に達すると、I細胞からコレシストキニンという消化管ホルモンが分泌され、一旦血中へ移行した後、これが胆嚢を収縮して胆汁の分泌を促進する。胆汁中には胆汁酸というコレステロールが水酸化された胆汁酸がある。この胆汁酸が脂肪の大きな塊を乳化し、ばらばらの脂肪分子にする(下図)。ばらばらになった脂肪分子は膵リパーゼによって、グリセリンに一つだけ脂肪酸が結合したモノグリセリドと脂肪酸に分解される。
 次に、胆汁酸が図の如く、ミセルを形成する。このミセル中にコレステロール、脂肪酸、モノグリセリドを入り、この状態で小腸粘膜細胞中へ吸収される。
 小腸粘膜細胞中では、いったん、このミセルが分解される。次に(下図)、モノグリセリドと脂肪酸は3種の酵素(アシルCoA シンテターゼ、アシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ)の作用を受けて、トリグリセリドに変換される。複雑なようだが、要はモノアシルグリセロールに一つずつ順番に脂肪酸が結合し、モノグリセロールに2個の脂肪酸が結合し、合計3個の脂肪酸が結合したトリグリセリドの形になるだけの話である。次に、ACAT (acyl-coenzyme A: cholesterol acyl transferase) の存在下にコレステロールと脂肪酸が結合し、コレステロールエステルを生成する。リン脂質の球状の膜に蛋白質Apo B-48が結合し、中にトリグリセリドやコレステロールエステルが入って未熟カイロミクロンが出来上がる。この未熟カイロミクロンは小腸粘膜のリンパ管へ入った後、胸管を経て左鎖骨下静脈から全身へ運ばれる。

 リンパ管を経て血中へ移行した未熟カイロミクロンは、HDLよりApo Eapolipoprotein E)とApo C-IIというタンパク質を受け取り、カイロミクロンとなる(下図)。カイロミクロンの最も重要な役割は、各組織(脂肪細胞、心筋、骨格筋など)へ脂肪酸を運ぶことにある。ここでは脂肪細胞を例に取る。Apo C-IIによって脂肪細胞のリポ蛋白リパーゼ(LPL; lipoprotein lipase)が活性化され、トリグリセリドは、脂肪酸とグリセロールへ分解される。脂肪酸は脂肪細胞内においてグリセロールと再結合し、トリグリセリドとなって貯蔵される。脂肪細胞へ取り込まれない脂肪酸はアルブミンと結合し、血液中を循環した後に各組織へ運ばれることになる。なお、グリセロールは肝臓へ運ばれる。このようにしてカイロミクロン中の90%以上のトリセリドは分解され、Apo C-IIHDLへ戻り、カイロミクロンレムナントとなる。レムナントとは、残渣を意味する。トリグリセリドが脂肪細胞へ輸送された残りかすという意味であろう。このカイロミクロンレムナント上のApo Eと肝細胞上のリポタンパク質受容体が結合し、カイロミクロンレムナントそのものが肝細胞に取り込まれる。少しややこしくなってきたが、まだ序の口であろう。

VLDLLDLの代謝  本ページの先頭へ
 未熟VLDLは、リン脂質で構成された球状の膜内にトリグリセリドやコレステロールエステルを多く含み、Apo B-100というリポ蛋白質が結合したものである。未熟VLDLが肝細胞から血中へ移行すると、カイロミクロンの場合と同様にHDLからApo EApo C-IIというタンパク質を受け取り、VLDLとなる(下図参照)。カイロミクロンの場合とほぼ同様に、Apo C-IIによって脂肪細胞のリポ蛋白リパーゼ(LPL)が活性化され、トリグリセリドは、脂肪酸とグリセロールへ分解される。脂肪酸は脂肪細胞内においてグリセロールと再結合し、トリグリセリドとなって貯蔵される。脂肪細胞へ取り込まれない脂肪酸はアルブミンと結合し、血液中を循環した後に各組織へ運ばれることになる。このようにしてVLDL中のトリセリドは分解され、Apo C-II Apo EHDLへ戻り、LDLとなる。VLDLLDLの中間体の粒子をIDLと呼ぶ。上記の如く、VLDLからトリグリセリドが抜かれた粒子がLDLとなるので、この粒子にはコレステロールエステルが多い。このLDLは各組織へコレステロールを運搬することになる。LDL上のApo B-100は各組織のLDL受容体へ結合し、エンドサイトーシスによってLDL粒子そのものが細胞内へ入り、細胞内においてリソソームによって脂肪酸、コレステロールに分解されることになる。その後、各組織へ運ばれなかった残りのLDLは肝臓において取り込まれる。LDL受容体が遺伝的に欠損している場合は、LDLの取り込みが出来ず、血中にいつまでも循環することから、血管内皮細胞上において酸化されて酸化LDLとなり、これが血管壁のマクロファージに際限なく取り込まれることから動脈硬化の原因となる。このような病態を家族性高コレステロール血症(II型高脂血症)という。
3 HDLの代謝  本ページの先頭へ
 未熟HDLは円板状の形をしており、小腸や肝臓において産生され、直接血中へ分泌される(下図参照)。HDLはアポ蛋白(Apo A-1Apo C-IIApo E)を多く含む。小腸や肝臓から分泌された未熟HDLにはまだコレステロールの貯蔵が少ない。未熟HDLが血中へ分泌されると、末梢組織において遊離コレステロールを引き抜く。血漿中に存在するLCAT (lecithin-cholesterol acyltransferase) HDL中のApo A-1によって活性化され、コレステロールをコレステロールエステルとする。未熟HDLがコレステロールエステルを溜め込み始めたものをHDL3という。更にコレステロールを溜め込み、円板状から球状になったものをHDL2と呼ぶ。HDL2は、次に不思議なことを行う。つまり、VLDLHDLの間で、コレステロールとトリグリセリドを交換する(下図の右下)。HDLVLDLからトリグリセリドを取り込み、VLDLHDLからコレステロールエステルを取り込む。交換反応である。この交換反応は、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP; cholesterol ester transfer protein)という酵素によって行われる。HDL2はその後、肝臓へ運ばれて取り込まれる。
4 コレステロールの流れ  本ページの先頭へ
 話がかなり複雑になって来たので、ここでコレステロールの流れを整理してみる(下図)。肝臓で生成されたVLDLはトリグリセリドが豊富で、これを各組織へ運ぶ。すると、LDLにはコレステロールが豊富になることから、LDLがコレステロールを各組織へ運ぶ。この現象がLDLを悪玉コレステロールと呼ぶゆえんであろう。各組織に存在する過剰な遊離コレステロールは、HDLによって引き抜かれる。この現象がHDLを善玉コレステロールと呼ぶゆえんであろう。図のように、コレステロールはあちこちの組織を循環し、バランスを取っている。コレステロール輸送のバランスの異常によって血中のコレステロール値が異常に高くなる場合を高コレステロール血症と呼ぶ。コレステロールは体にとって必要不可欠な成分であり、細胞膜の構成成分となったり、ステロイドホルモンやビタミンDの原料となる。一方、トリグリセリドの値が異常に高くなった場合が高トリグリセリド血症となる。当然ながら、トリグリセリドも体にとって必要な成分である。通常、脂肪細胞に貯蔵されており非常時に備えてエネルギー源となる。両方高くなった場合は高コレステロール高トリグリセリド血症となる。

全体をまとめた図を次に示す。トリグリセリド及びコレステロールの全体の流れを極力簡単に図式化した。

5 コレステロールの代謝  本ページの先頭へ
 コレステロールには、動物性コレステロールと植物性コレステロールがある。植物性コレステロールは小腸の粘膜細胞において一旦は吸収されるが、能動輸送によって細胞外へ戻される。この時、動物性コレステロールも一緒に戻されるので、消化管において食餌によって摂取したコレステロールの吸収が悪くなる。コレステロールの高い場合は植物性コレステロールを摂取するのも食事療方の一つといえる。植物性コレステロールは、トランス脂肪酸を含まないマーガリンに含まれる。
 コレステロールには、食餌由来と生体内において産生されるコレステロールがある。ここでは、生体内におけるコレステロール産生過程を記す。コレステロール合成はアセチルCoAから始まる。では、アセチルCoAは何から合成されるかというと、種々ある(下図)。途中の反応は相当省いているが、タンパク質がアミノ酸となり、炭水化物がグルコースとなり、脂質が脂肪酸になると、それぞれがアセチルCoAへと変換される。もちろん、アセチルCoAはクエン酸シンターゼの存在下にクエン酸となり、クエン酸回路(TCA回路)においてNADHなどを産生し、これが電子伝達系へ行きATPを産生するが、コレステロールの原料ともなる。

 次の図において、コレステロールの生合成過程を示す。炭素数2個のアセチルCoAに次々と炭素が結合していって最後にコレステロールとなる。途中で、HMG-CoA(3−ヒドロキシー3−メチルグリタリルCoA)がHMG-CoA還元酵素の存在下にメバロン酸へと代謝される。この酵素を阻害する薬物がメバロチンなどで有名なHMG-CoA還元酵素阻害剤である。いわゆるスタチン系の薬剤である。この系の薬剤は現在、最も売上高の良い薬剤の一つである。筆者も本薬剤を糖尿病性合併症に対してその効果を試したことがある(糖尿病性合併症の項をご参照下さい)。HMG-CoAからメバロン酸へと代謝され、更に炭素数が増してスクアレンとなり、最後にコレステロールとなる。なお、HMG-CoA還元酵素は、細胞内にコレステロールが低いとSREBP-2が活性化され、高いと活性が抑制される。


6 トリグリセリド(トリアシルグリセロール)の代謝  本ページの先頭へ

 次に、脂肪酸およびトリグリセリドの生合成について記述したい。コレステロール合成の場合と同様に、脂肪酸合成の出発点はアセチルCoAである。このアセチルCoAという言葉が度々出てきたので、これについて簡潔に記したい。CoAは、coenzyme A(補酵素A)の略である。では、CoAとはどのようなものか。アデニンにリボースが結合し、この化合物にリン酸基が3つほど結合し、さらにリン酸基の先にパントテン酸が結合し、末端に -SH基を持つ化合物である(相当、大雑把な説明ではある)。構造式は省略する。末端の -SH基にアセチル基(CHCO基)が結合したものがアセチルCoAである。良く似た用語にアシルCoAというものがある。例えば、脂肪酸の一つであるパルミチン酸がCoAと結合したものがパルミトイルCoAといわれる。アシルCoAとは、アセチルCoAやパルミトイルCoAなど、CoASH基とチオエステルを形成した化合物の総称である。補酵素coenzyme Aはこれらアシル基の運び屋となる。本ページをご覧になっている方は、何か、段々と脂質異常症から遠ざかっているような感じを受けていると思う。筆者自身あちこち道草をしているのでは、と思っている。もう一つ、余計な事を記述する。脳や自律神経から遊離される化学伝達物質であるアセチルコリンは、コリンアセチラーゼの触媒作用によってアセチルCoAとコリンが結合することで生合成される。アセチルコリンは、コリンエステラーゼによって酢酸とコリンに分解される。

 コレステロール生合成の時に記述したように、色んなものがアセチルCoAの原料となり、アセチルCoAから脂肪酸が合成される(下図)。これについて簡潔に記述したい。下図は、光彩を付けたりして少し洒落たつもりである。

アセチルCoAカルボキシラーゼの触媒によってアセチルCoAにカルボキシル基(COO基)が結合したマロニルCoAが生成される(下図参照)。このアセチルCoAからマロニルCoAへの過程が脂肪酸合成の律速段階である。まず、脂肪酸合成酵素にアセチルCoAが結合し、次にマロニルCoAも結合した後、脱炭酸、還元、脱水、還元、マロニルCoAの再度の結合、脱炭酸、還元、脱水、還元、などの反応が脂肪酸合成酵素上において次々と生じ、最後に炭素数16個の脂肪酸であるパルミチン酸が合成される。これらの過程はすこし複雑になるので省略する。

当然のことながら、脂肪酸はパルミチン酸だけではなく、オレイン酸(炭素=18)、リノール酸(炭素=18)、リノレン酸(炭素=18)、アラキドン酸(炭素=20)、その他がある。脂肪酸と言えば、最近良く言われる言葉で、ω-3系(n-3系とも呼ぶ)とか、ω-6系(n-6系)の脂肪酸とかの用語が特定保健用食品などでもお目にかかる。ωは脂肪酸(C-C-C-C--------------COOH)の一番端っこの炭素の位置を示す。例えば、ω-3系脂肪酸とは、一番端っこの炭素から3番目に二重結合があるC-C-C=C-C-CC---------COOHとなり、ω―6系脂肪酸は、C-C-C-C-C-C=C-C---------COOHとなる。ω−3系脂肪酸には魚の油に見られるエイコサペンタエン酸(EPA)や、ドコサヘキサエン酸(DHA)がある。ω―6系の脂肪酸としては、アラキドン酸が有名であろう。

脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼは、「運動とインスリン抵抗性改善」や「アディポネクチン」の項において、既に記述している。この酵素は高カロリーで増加し、低カロリーや飢餓で減少することが知られている。また、アセチルCoAカルボキシラーゼは、運動によってAMPが蓄積する場合やアディポネクチンによってAMPキナーゼが活性化されるか、アドレナリンやグルカゴンによるcyclic AMP/PKAによってリン酸化されると不活性となる。逆にインスリンによって脱リン酸化されて活性状態になる(下図)。

脂肪酸合成酵素による脂肪酸合成は、パルミチン酸までであるが、細胞内にはパルミチン酸の炭素数を伸長する伸長酵素がある。これによって種々の炭素数の延長された脂肪酸が生成される。この脂肪酸伸長酵素(Elovl6)はインスリン抵抗性に関係するとの報告もある。この酵素のノックアウトマウス(遺伝子欠損マウス)では、高脂肪食を負荷しても高インスリン血症、高血糖、および高レプチン血症を発症しない。このインスリン抵抗性の改善は、肝臓でのインスリンシグナル分子IRS-2insulin receptor substrate-2)の回復と肝臓プロテインキナーゼC活性の抑制を伴っており、結果としてAktリン酸化の回復が見られるなどの報告を筑波大学医学部糖尿病内科の教室が発表している(Nature Med 13: 1193 - 1202 , 2007 )

脂肪酸が生成された。次はグリセロールとトリグリセリドである。次の図に示すように、解糖系において、グルコースはグルコースー6リン酸となり、以下、図のように次々と代謝されて、グリセルアルデヒド3リン酸まで変換されると、これは解糖系へ進むと共にグリセロール合成のために、ジヒドロキシアセトンーリン酸へ変換され、グリセロールリン酸へ変換される。脂肪酸とCoAがアシルCoAシンテターゼの触媒によってアシルCoAとなる。アシルCoAのアシル基は、アシルトランスフェラーゼの触媒作用によってグリセロールリン酸へ結合し、リゾホスファチジン酸となる。もう一つアシルCoAのアシル基がリゾホスファチジン酸へ結合し、ホスファチジン酸となる。ホスファチジン酸が脱リン酸化されて、ジアシルグリセロールとなり、更にもう一つアシルCoAのアシル基がジアシルグリセロールに結合してトリグリセリドとなる。これで完成。

上記は、脂肪細胞におけるトリグリセリドの合成である。肝臓では、上記の反応の他に、グリセロールがグリセロールキナーゼの触媒によってグリセロールリン酸が生成され、これがアシルCoAと結合してトリグリセリドが生成される場合もある。一般に脂肪細胞では、グリセロールキナーゼの活性は極めて低い。ちょっと待てよ。PPARγ刺激薬であるピオグリタゾンの項において、脂肪細胞のグリセロールキナーゼが活性化されてトリグリセリドが生成されると書いているではないか、という疑問を持った方は相当鋭いと言えよう。筆者は、PPARγが刺激されると、脂肪細胞においてグリセロールキナーゼの発現が上昇してこれがトリグリセリドの合成に関与するという報告(Nature Med. 8: 1122-1128, 2002)を参考にして記述した。間違いではありません。

なお、脂肪酸の酸は、C-C-C-C--------------COOHのような構造をしており、最後のカルボキシル基によって酸となる。この脂肪酸がグリセロールと結合して中性の中性脂肪(トリグリセリド)となる。これで、やっと本題の脂質異常症に移れる。と思っていたが、その他、脂肪酸のβ酸化とケトン体の生成に関する記述を忘れていた。

7 脂肪酸のβ酸化  本ページの先頭へ

 脂質に関して一般的な事を記述しているので、ついでに脂肪酸のβ酸化について簡潔に記したい。上記したように食餌によって摂取したトリグリセリドはカイロミクロンによって、生体内において産生されたトリグリセリドはVLDLによって脂肪細胞や骨格筋などの各組織へ運搬される。脂肪細胞を例にとる。内臓脂肪において過剰に蓄積したトリグリセリドは分解され、脂肪酸がアルブミンと結合した形で骨格筋へ運ばれる。下図の如く、脂肪酸はCD36によって細胞内へ輸送されると、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ I (CPT1)によってミトコンドリアへ輸送され、β酸化される。CPT1の活性はマロニルCoAによって抑制性に調節されているが、アセチルCoAからマロニルCoAへの変換が低下すると、この活性が上がり、脂肪酸のミトコンドリア内への輸送が亢進する。この点については「運動とインスリン抵抗性」や「アディポネクチン」の項において詳述した。運動によって細胞内AMP濃度が上昇するか、血中アディポネクチン濃度が高まると、AMPキナーゼが活性化され、AMPキナーゼはアセチルCoAカルボキシラーゼをリン酸化し、アセチルCoAからマロニルCoAへと変換されにくくなる。そうなると、細胞内のマロニルCoAの濃度が減少し、マロニルCoAによるCPT1に対する抑制性の調節が開放されて、脂肪酸がミトコンドリア内へ大量に輸送されることになる。脂肪酸がCPT1によって輸送される過程は少し複雑になるのでここでは詳述しない。脂肪酸はインスリン受容体の感受性を悪くするので、脂肪酸は代謝されることが望ましい。

 ミトコンドリア内に輸送された脂肪酸はβ酸化されてATPを産生することになる。こればっかりは構造式無しでは説明できない。下図に脂肪酸を示している。構造式のRは、CH3-CH2-CH2--------を示す。パルミチン酸の場合、Rのところに炭素が13個あることになる。カルボキシル基の隣から、α、β、γと炭素の位置をギリシャ文字によって表示する。つまり、β酸化とは脂肪酸のβ位に位置する炭素を酸化することを意味する。筆者は、はるか前にβ酸化と云う言葉に遭遇した時、相当難しい反応だろうと思っていたが、実際に逐一追って見ると大した反応では無いと安心した記憶がある。まず、脂肪酸とCoAがアシルCoAシンテターゼの触媒によってアシルCoAができる。この反応にはATPを必要とする。出来たアシルCoAは、アシルCoAデヒドロゲナーゼによって水素が取れると共にその水素をFADへ供給してFADH2を生成する。FADH2は電子伝達系へ行ってATP産生に関与する。次に、エノイルCoAヒドラターゼの触媒によって水酸基(-OH基)がβ位に結合する。次に、3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼの触媒によって脱水されると共にその水素はNAD+に結合し、NADHを産生する。NADHは電子伝達系へ行ってATP産生に関与する。次に、3-ケトアシルCoAチオラーゼによってアセチルCoAを1個放出して炭素数の2個少ないアシルCoAとなる。この炭素数が少ないアシルCoAは上記の反応を繰り返し、最終的には全てアセチルCoAとなる。このアセチルCoAはクエン酸回路(TCA回路)において水と二酸化炭素に分解される。

 β酸化はペルオキシソームという細胞内小器官においても行われる。上記は飽和脂肪酸を例にとって記述した。不飽和脂肪酸の場合、二重結合がある。この場合、シス体がトランス体へ変換されて水酸基が付いて通常のβ酸化へと代謝される場合など、種々ある。この点については詳述しない。上記のβ酸化においてアセチルCoAの濃度が通常より多い場合(糖尿病など)は、アセチルCoAが原料となり、ケトン体が生成される。では、ケトン体はどのように生成されるか。

8 ケトン体の生成  本ページの先頭へ

脂質異常症の項において糖尿病が出てきて場違いかも知れないが、糖尿病を例にとってケトン体の生成について記述したい。細胞は筋の収縮とか酵素のリン酸化(酵素の活性化)のため常時ATPを必要とする。通常、グルコースが解糖系からピルビン酸を経てクエン酸回路(TCA回路)へと代謝されてATPが産生される。しかし、糖尿病ではインスリン抵抗性になっているため、細胞にグルコースが十分に取り込めない。細胞内にグルコースが十分な量が無いと、代わりに脂肪酸がβ酸化されて、この時産生されるNADHFADH2が電子伝達系へ行き、ATPを産生することになる。したがって、脂肪酸がβ酸化されるとアセチルCoAの濃度が通常より高くなる。この時、ケトン体が産生される。

アセチルCoAはアセトアセチルCoAとなり、HMG-CoAを経てアセト酢酸が生成され、これは脱炭酸によってアセトンへ、還元されてn-3-ヒドロキシ酪酸へと変換される。ケトン体は、アセトン、アセト酢酸、n-3-ヒドロキシ酪酸である。主要なケトン体であるアセト酢酸やn-3-ヒドロキシ酪酸は強い有機酸であり、アシドーシスとなる。アセトンは中枢神経系に作用して昏睡を招く。

9 脂質異常症(高脂血症)の分類  本ページの先頭へ

 異質異常症は、体質、遺伝子異常、などに基いて発症する原発性脂質異常症と、他の基礎疾患に基いて生じる続発性脂質異常症に分類される。

原発性脂質異常症の分類

1.  原発性高カイロミクロン血症

@     家族性リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症

A     アポリポ蛋白C-II欠損症

B     原発性V型高脂血症

C     その他の原因不明の高カイロミクロン血症

2.  原発性高コレステロール血症

@     家族性高コレステロール血症

A     家族性複合型高脂血症

3.  内因性高トリグリセリド血症

@     家族性IV型高脂血症

A     特発性高トリグリセリド血症

4 家族性III型高脂血症

5 原発性高HDLコレステロール血症

脂質代謝異常―高脂血症・低脂血症― P9, 2007年、日本臨床社増刊号

続発性脂質異常症の分類

A.    高コレステロール血症

@        甲状腺機能低下症

A        ネフローゼ症候群

B        原発性胆汁性肝硬変

C        閉塞性黄疸

D        糖尿病

E        Cushing症候群

F        薬剤(利尿薬、β遮断薬、コルチコステロイド、経口避妊薬、シクロスポリン)

B.     高トリグリセリド血症

@        飲酒

A        肥満

B        糖尿病

C        Cushing症候群

D        尿毒症

E        SLE

F        血清蛋白異常症

G        薬剤(利尿薬、非選択性β遮断薬、コルチコステロイド、エストロゲン、レチノイド)

脂質代謝異常―高脂血症・低脂血症― P9, 2007年、日本臨床社増刊号

 まず、筆者は臨床家ではないことをお断りしておく。薬学部の一教員に過ぎない。したがって、上記疾患について詳細に記述する知識は乏しいし、中途半端な知識による誤解などを極力避けたい。本項では、最大公約数的な現象のみを記述するに留めたい。

上記の分類を次の図ように、簡単にまとめてみた。遺伝性(原発性)、生活習慣(運動不足、高カロリー、喫煙など多数)、他の疾患(糖尿病など多数)、加齢(女性の閉経後)などにより、脂質異常症となり、これが動脈硬化を誘発し、心筋梗塞や脳梗塞を生じる。

2007年の動脈硬化性疾患のガイドラインにおいて、「高脂血症診断基準」を「脂質異常症の診断基準」と改め、基準から総コレステロール値が削除され、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高中性脂肪血症の3種類として分類された。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)(新ガイドラインより)

LDLコレステロール血症

LDLコレステロール ≧140mg/dL

HDLコレステロール血症

HDLコレステロール <40mg/dL

高トリグリセライド血症

トリグリセライド ≧150mg/dL

  この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。
  薬物療法の適応に関しては他の危険因子も勘案して決定されるべきである。
   LDL-C値は直接測定法を用いるかFriedewaldの式で計算する。
  (LDL-C=TCHDL-CTG/5TG値が400mg/dL未満の場合))
   TG値が400mg/dL以上の場合は直接測定法にてLDL-C値を測定する。

10 善玉コレステロールと悪玉コレステロール   本ページの先頭へ

 LDLコレステロールは善玉と呼ばれ、HDLコレステロールは悪玉と呼ばれている。HDLはプラーク(病巣)部位から遊離コレステロールを引き抜き、プラークの成長を抑制する作用がある。では、LDLはどうか。LDLは全身へコレステロールを運搬するリポタンパクであるが、血中において過剰に多いと動脈硬化の原因となる。この動脈硬化になる過程とHDLによるコレステロールの引き抜きについて、以下、概説したい。

動脈硬化は、このLDLが酸化され、酸化LDLになることから全ては始まる。LDLという粒子については上記したが、この粒子が血中において増加すると、内皮細胞下へ入りこむ(下図)。LDLはプラスに荷電している。一方、平滑筋細胞や内皮細胞において産生される糖タンパクであるプロテオグリカンはかなり強くマイナスに荷電している(プロテオグリカンは細胞外基質である)。プラスに荷電したLDLがマイナスに荷電したプロテオグリカン(糖鎖の部位)に引き付けられるように強固に結合すると、LDLの構成タンパクであるApo-Bタンパクは構造変化して血管壁から外へ出ることはない。次に、内皮細胞において産生される活性酸素(スーパーオキシドなど)によってLDLが酸化され、酸化LDLとなる。酸化LDLが多くなると、単球が内皮細胞下へ侵入して活性化し、マクロファージとなる。このマクロファージ上にはスカベンジャー受容体という、酸化LDLの受容体が存在し、これを無制限に取り込む。こうやってふっくらと膨らんだマクロファージが泡沫細胞である。


 次の図
に示すように、酸化LDLがマクロファージへスカベンジャー受容体を介して取り込まれると、リソソームという細胞内小器官に運ばれて、酸性リパーゼによって遊離コレステロールと脂肪酸に分解される。次に、遊離コレステロールは小胞体へ運ばれてここでACAT-1(アシルCoA:コレステロール・アシルトランスフェラーゼー1)によって再びコレステロールと脂肪酸が結合してコレステロールエステルとなり、この状態で細胞内において蓄積される。

このように、LDLが酸化され、酸化LDLとなりマクロファージへ無制限に取り込まれると、内皮細胞下は膨らむ。この膨らんだ部位をプラーク(病巣)という(下図)。つまり、血中LDLが増加すると、上記の一連の過程によってプラーク部位が図の如く増加する。これを粥状動脈硬化という。

では、プラークが増えるとそれはそのままか?というと、生体には防御機構があり、プラーク部位のコレステロールを引き抜く機構が存在する。このコレステロールの引き抜きにHDLが関与する。次の図に示すように、マクロファージ内において、コレステロールエステルとして蓄積されているコレステロールが、中性コレステロールエステル水解酵素(NCEH)によって、再び遊離コレステロールとなる。次に、HDLがプラーク部位に結合し、アポタンパクであるApo-A1ABCA1ATP-binding cassette transporter A1)を活性化する。活性化されたABCA1は、遊離コレステロールを外へ輸送し、HDLへ運ぶことになる。HDLへ入った遊離コレステロールは、またLCATlecithin:cholesterol acyltransferase)によってコレステロールエステルとなり、ここで蓄えられて、このコレステロールが肝臓等へ輸送される。この過程をコレステロールの逆転送系という。HDLが善玉コレステロールと言われる所以がここにある。つまり、粥状動脈硬化部位からコレステロールを抜き取る作用を示すので、HDLは高い方が良い。逆にHDLが低いとこの転送が出来なくなり、生体防御機構が働かない。

 話が少し複雑になってきたので、ここで簡単にまとめてみる。次の図を見ていただきたい。LDLが内皮細胞下へ侵入し、酸化LDLとなる。単球が内皮細胞下へ侵入し、これが活性化されてマクロファージとなり、酸化LDLを無制限に取り込む。マクロファージが泡沫細胞となり、これが多くなるとプラークが形成される。HDLはプラーク部位のマクロファージからコレステロールを引き抜き、肝臓へ運ぶ。なお、血液中の10分の1LDLは内皮細胞下へ侵入すると考えられている。マクロファージは酸化LDLを取り込むと記述したが、その他にカイロミクロンレムナントやsmall dense LDLをも取り込むことが明らかにされてきている。では、このようにプラークが形成された状態で、血中HDLが少なくなるとどのようなことが生じるかについて、以下、記述したい。



HDLコレステロール値と冠動脈疾患の発症率は逆相関の関係を示す(下図)。図の如く、HDLコレステロールが低下すればするほど冠動脈疾患の発症率が増加していることが明らかである。つまり、HDLによる血管壁からのコレステロール引き抜きが十分に行われると仮定すると、粥状動脈硬化の悪化は相当程度に防御できるものと思われる。したがって、治療の面から考えると、LDLコレステロールを下げることも重要であるが、同時にHDLコレステロールを上げることもほぼ同程度に重要なことと考えられる。


11 糖尿病を例にとり、粥状動脈硬化発症の機序を考える 
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 糖尿病時には肝臓におけるLDL受容体の活性が低い(下図)。つまり、血液中を循環するLDLを肝臓へ取り込む能力が通常と比べて低いことから、このLDLは血管壁の内皮細胞下へ侵入してプロテオグリカンと結合した後、酸化されて酸化LDLとなり、マクロファージに際限なく取り込まれることになる。

 インスリンは、脂肪細胞においてホスホジエステラーゼ3Bを活性化してcyclic AMP5`AMPへ変換して細胞内のcyclic AMP濃度を下げるが、インスリン抵抗性状態(糖尿病状態)ではこの反応が低下する(下図)。この反応が低下すると、細胞内のcyclic AMP濃度が増加し、結果的にプロテインキナーゼA (PKA) が活性化され、PKAはホルモン感受性リパーゼを活性化(リン酸化)する。ホルモン感受性リパーゼは中性脂肪(トリグリセリド)を分解して脂肪酸とモノグリセロールに分解し、脂肪酸は血中へ出た後、肝臓などへ運ばれる。

 上記のように、肝臓へ運ばれた脂肪酸は肝臓内において中性脂肪合成の原料となり、大量の中性脂肪が産生される(下図)。この結果、中性脂肪が豊富なVLDLが大量に産生され、これが血中へ運ばれる。通常、HDLは小腸や肝臓において産生されるが、VLDLの代謝(異化)によっても産生される。VLDLがリポ蛋白リパーゼ(LPL)によって代謝されてHDLが産生されるが、インスリン抵抗性状態(糖尿病状態)ではこのLPLの活性が低下しており、HDLへの方向への代謝が進まず、結果的に血中のHDL濃度が減少することになる。通常、HDLは血管壁よりコレステロールを肝臓へ運ぶ役割を果たしているが、血中のHDLが減少すると、この反応が減少し、粥状動脈硬化が促進されることになる。極めて興味深いことに、運動はこのLPLの量及び活性の両方を上げて、血中のHDL濃度を上げる。運動効果の意外な面であろう。血中における大量のVLDLIDLを介してLDLの産生に繋がり、血中に大量のLDLが残る。通常、このLDLは肝臓において取り込まれるが、上記したように糖尿病時にはLDL受容体の活性が著明に低いことから、肝臓へ取り込めない。血中における大量のLDLは血管壁へ行き、内皮細胞下へ侵入し、酸化LDLとなり、マクロファージによって際限なく取り込まれることになる。これが、糖尿病時における粥状動脈硬化の発症機構であろう。


文責:鎌田勝雄






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