脂質異常症治療薬

1 HMG-CoA還元酵素阻害薬
【スタチン系薬剤による多面的効果 (pleiotropic effects)  
2 フィブラート系薬剤
【閑話休題】 
【フィブラート系薬剤による多面的効果 (pleiotropic effects)
3 プロブコール                          
4 コレステロール吸収阻害薬
5 ニコチン酸製剤
6 エイコサペンタエン酸製剤
7 陰イオン交換樹脂                         

はじめに

 現在、あらゆる種類の薬の中で最も処方が多いというか、最も売れている薬は、スタチン系のアトルバスタチン(リピトール)であると言われている。この系の薬物は、三共(現在の第一三共)のプラバスタチンから始まる。菌類の細胞骨格に必須であるメバロン酸は、HMG-CoA還元酵素によって産生される。菌類にはこのHMG-CoA還元酵素を阻害する物質があるのではないかという仮定のもとに、菌類中における数千の化合物を探索し、ついにメバスタチンが発見された。この化合物はラットやマウスではコレステロール値を下げなかったものの、ニワトリ、イヌ、サルなどにおいてコレステロール値を劇的に下げることが判明した。しかし、多くの副作用のため開発は一時中断されたが、その後、メバスタチンの生体内代謝物であるプラバスタチン(メバスタチンの水酸化物)が臨床的にも有効と判断されて最初のスタチン系薬剤として登場した。以来、プラバスタチン(メバロチン)が第一世代のHMG-CoA還元酵素阻害薬となり、その後、シンバスタチン(リポバス)、フルバスタチン(ローコール)、アトルバスタチン(リピトール)、ピタバスタチン(リバロ)、ロバスタチン(クレストール)など多くのスタチン系薬剤が開発されている。
 これらスタチン系薬剤は、冠動脈疾患(心筋梗塞)を著明に減弱することが大規模臨床試験において証明されている。また、その後の研究により、コレステロール値を下げる作用だけではなく、種々の別な作用{pleiotropic effect(多面的効果)}も次々と報告され、これらの作用が動脈硬化を抑制すると言われている。このコレステロール低下作用以外の多面的効果に関しては後述する予定である。また、一部のスタチン系薬剤は欧米においては既にスイッチOTC薬(一般用医薬品)となって販売され、一般消費者が薬剤師の適切な指導の下で購入できるようになっている。欧米ではセルフメディケーション時代が始まっている。
 ところで、コレステロール値は高くても良いとか、コレステロール値が高いヒトほど長生きするとかの情報をお聞きしたことはないだろうか。筆者は手元にその種の書籍を手にしているし、学会などでもコレステロールが高いと冠動脈疾患が増加すると云う説は崩れたと議論しているのを聞いたことがある。その都度、首を傾げざるを得なかったというか、このような情報を安易に流して良いのかと疑問に思ったことがある。その理由を簡単に述べる。例えば、糖尿病患者さんを想定してみよう。糖尿病患者さんは常に空腹状態にあり、食べ物は一種の麻薬に近いような意味合いを持つ。このような状態の時、「コレステロールは高くても良い」という情報が一般化し、糖尿病患者さんがそれをまともに受け取った場合、コレステロールの多い食材を好んで食しないだろうか。「書籍とか、マスコミや学会などでもコレステロールは高い方が長生きすると言っているではないか!!」「確かに私は糖尿病患者であるが、“コレステロールは高くても良い”のなら、試してみよう!!」人間は弱い生き物である。常にexcuse を求める。「こんな分厚い本に書いてあるではないか、どうして私が食べては駄目なんだ!」そして、その結果がどうなるか、脂質異常症の後半の部分を読んでいただきたい。悲惨な結果が待ち受けている。要は統計の取り方に問題があるのだろうと推測している。「コレステロールは高くても良い」という統計結果を出した先生は糖尿病や脂質異常症など、各疾患毎にも同様に統計を取ったのだろうか?糖尿病患者さんでもやはりコレステロール値は高い方が長生きするという結果が出たのだろうか?筆者が知る限り、このような細かい統計の取り方はしていなかったように思われる。今後、各疾患毎におけるコレステロール値と延命率等もう少し、実際の医療に即した統計の取り方が必要となり、同時にアカデミックな議論が必須であると推察する。
1 HMG-CoA還元酵素阻害薬   本ページの先頭へ
 この系の薬剤には、プラバスタチンシンバスタチンフルバスタチンアトルバスタチンピタバスタチン、ロバスタチンなどがある。

次の図において、原発性コレステロール血症患者に対するアトルバスタチンのLDLコレステロール低下作用を示す。図の如く、アトルバスタチンは用量依存的にLDLを低下する。


 

上記スタチン系薬剤のうち、その効力比はどうなっているのか。次の図においてまとめている。このうち、セリバスタチンは発売中止となっている。



次に、ロバスタチンを例にとり、どのような脂質が増減するかを観察してみる(下図)。ロバスタチンは、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TGをそれぞれ著明に低下させ、HDLコレステロールを上げていることが分かる。このような効果によって粥状動脈硬化中のコレステロールが減少するものと推測される。



 次の図
において、コレステロールの生合成過程を示す。炭素数2個のアセチル
CoA に次々と炭素が結合していって最後にコレステロールとなる。途中で、HMG-CoA(3-ヒドロキシー3-メチルグリタリルCoA)がHMG-CoA 還元酵素の存在下にメバロン酸へと代謝される。この酵素を阻害する薬物がプラバスタチン(メバロチン)などで有名なHMG-CoA 還元酵素阻害剤である。いわゆるスタチン系の薬剤である。この系の薬剤は現在、最も売上高の良い薬剤の一つである。では、HMG-CoA 還元酵素を阻害するだけでコレステロールが劇的に低下するかというとそうでもない。



 次の図を見ていただきたい。スタチンがHMG-CoA 還元酵素活性を阻害すると、肝細胞の中のコレステロールは低下する。コレステロールはコレステロールエステルとして、小胞体において貯蔵されるが、この貯蔵コレステロールが低下することになる。すると、小胞体に結合していたSREBP (sterol regulatory element binding protein) が離れて、核内へ移行する。このSREBP は転写因子である。何を転写するかというと、LDL 受容体の mRNA を転写する。mRNAはリボソームでタンパク質へ変換され、小胞体において折りたたまれて膜へ移行し、LDLを取り込む。このLDL 受容体の増加により、循環中のLDL は減少することになる。循環中の LDL が減少すると、LDL の血管壁への移行が少なくなることから、粥状動脈硬化が減少する。実際に大規模臨床試験において、スタチン系薬剤は確実に冠動脈疾患発症率を低下することが明らかにされている。
 しかしながら、次の図を見ていただきたい。スタチン系薬剤によってコレステロールを低下すると、同時にユビキノン(補酵素Q10; CoQ10)も減少することになる。では、CoQ10 はどんな生理作用をしているかというと、ミトコンドリアにおける電子伝達系において極めて重要な役割を果たしている。このCoQ10 が少なくなるということは、電子伝達系に障害が生じることを意味し、電子伝達系に障害が出ることはミトコンドリアにおけるATP の産生に障害が生じることを意味する。脂溶性の高いスタチン系製剤ほど CoQ10 の産生が減少する。したがって、プラバスタチンを除いて、ほとんどのスタチン系薬剤を投与する場合は、このCoQ10を同時に投与する必要があるかも知れない。スタチン系薬剤の重要な副作用の一つに横紋筋融解症が観察されるが、実はこのCoQ10 が減少するのが一因ではなかろうかと云う考えもある。体内においてCoQ10 が不足すると、次のような症状が現れることがある。脱毛、筋肉痛、不眠、下痢、口内炎、倦怠感、足が重い、胃が重い、肝障害、腎障害などである。また、膵臓のミトコンドリアにおいて、電子伝達系が障害されると当然のことながら、ATP が産生されず、インスリン分泌に障害が生じる。つまり、脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤は糖尿病を惹起する可能性も無くはないことになる。実際に2型糖尿病患者に対してCoQ10 が有効であるという報告もあるが、この点に関しては今後、大規模臨床試験の結果を待たねばならないだろう。なお、CoQ10 は日本において、心臓疾患の治療、筋ジストロフィーの治療、歯肉疾患、歯周病の改善、乳癌、パーキンソン病の予防などに使われている。CoQ10 が上記疾患の予防になるとしたら、スタチンによってCoQ10 が減少したら、どうなるのか、今後の検討が必要となろう。

スタチン系薬剤による多面的効果 (pleiotropic effects)  本ページの先頭へ
 スタチン系薬剤による多面的効果 (pleiotropic effects)について次の表にまとめる。色んな作用が報告されているが、ここでは抗動脈硬化に関係する効果について焦点を絞ってみたい。粥状動脈硬化は内皮細胞の機能低下から生じることについては今まで論じてきた(糖尿病性血管合併症の項をご参照下さい)。したがって、ここでは血管内皮細胞の機能改善とスタチン系薬剤の関係について少しデータを示しながら論じてみたい。 


次の図を見ていただきたい。NO合成酵素ecNOS)の発現に対するシンバスタチン及びロバスタチンの効果を調べている。両薬物とも用量に応じてNO合成酵素の発現を著明に増加している。
 次の図において、血管に酸化LDLox-LDL)を負荷すると、NO合成酵素(ecNOS)の発現は著明に低下している。つまり、LDLが増加して内皮細胞下において酸化されて酸化LDLになると、マクロファージに取り込まれると同時にNO合成酵素の発現を抑制することが明らかである。図では、一番左端が正常状態におけるNO合成酵素の発現を示しており、すぐ右にox-LDLが+となっているが、この時のNO合成酵素のバンドは著明に薄くなっており、発現が減少していることが分る。その次からシンバスタチンを処置している。シンバスタチンの濃度に応じてNO合成酵素の発現が増加いているのが明らかである。つまり、シンバスタチンは、脂質異常症状態の時にNO合成酵素の発現を増加し、内皮細胞の機能を改善することによって動脈硬化を改善することになる。


 上記のようにシンバスタチンによって、NO合成酵素の発現が増加した。次にNOの産生はどう変化したかを示す(下図)。通常、NO自身の測定は困難なため、その代謝物である亜硝酸(NO2-)を測定する。亜硝酸(NO2-)は、酸化LDLを負荷すると著明に減少し、これにシンバスタチンを処置すると、その濃度に応じて増加することが明らかである。

 NO合成酵素は膜の窪んだような部位であるカヴェオラという場所にカヴェオリンー1と結合して存在している。NO合成酵素が活性化するにはこのカヴェオリンー1と離れることが必須である。つまり、カヴェオラにカヴェオリンー1が大量に存在すると、それだけNO合成酵素はカヴェオリンー1から離れにくいことを意味し、逆にカヴェオリンー1が少ないとNO合成酵素が活性化されやすいことを意味する。次の図の左側をみていただきたい。血管にLDL-コレステロールをそれぞれ0, 100, 200 mg/dl 負荷した時のカヴェオリンー1の発現が一番左側のバンドである。この図では、ややこしくなるので、100 mg/dlの例を見ていただきたい。LDL (100 mg/dl) を負荷した後、アトルバスタチンを用量依存的に処置すると、図の如く、カヴェオリンー1の発現は著明に抑制されていることが分る。つまり、スタチン系薬剤は、カヴェオリンー1の発現を抑制することによって、NO合成酵素の活性をあげることになる。
 LDLを酸化したり、NOを酸化して不活性にするのはスーパーオキシドアニオン ( O2- ) である。このO2- は内皮細胞上のNAD(P)H oxidase によって産生される。このNAD(P)H oxidase の活性を見たのが次の図である。高コレステロール食負荷動物の血管では図の如く、NAD(P)H oxidase 活性は著明に増加しているのが分る。しかし、プロブコールやプラバスタチンを処置すると、NAD(P)H oxidase の活性は著明に抑制されているのが一目瞭然である。つまり、スタチン系薬剤はO2- の産生を抑制することによって、抗酸化作用を示すことになる。

 O2- superoxide dismutase (SOD) によって消去される。次の図を見ていただきたい。高コレステロール群の SOD はコントロール(健常群)と比べて著明に低いが、プラバスタチンを投与するとSOD の発現が増加している。なお、SODには、Mn SOD Cu/Zn SOD など数種ある。Mn SOD はミトコンドリアの周囲に多く、Cu/Zn SOD は膜に多く存在する。スタチン系薬剤は、全てのSODの量を増加させてO2- の消去を促進すると共に、O2- の産生をも抑制することによって著明な抗酸化作用を示すことになる。これらの抗酸化作用は、NO O2- によって代謝されるのを防ぎ、LDL が酸化 LDL に変化するのを防ぐことになる。これらの作用によって、スタチン系薬剤の抗動脈硬化作用が説明できる。つまり、スタチン系薬剤はLDLコレステロールを低下する作用以外にも、多面的効果 (pleiotropic effects)によって粥状動脈硬化を改善すると思われる。筆者の動物実験の経験から判断すると、LDLコレステロールを低下する作用よりも、この多面的効果の方が動脈硬化の改善に繋がっているのではないかと思えるほどである。


 上記スタチン系薬剤による内皮細胞に対する作用をまとめると、次の図のようになる。まず、NO合成酵素の発現を増加し、NO合成酵素を抑制するカヴェオリンー1の発現を低下する作用により、NO産生が著明に亢進することになる。NO合成酵素は、通常、膜が陥没したような構造であるカヴェオラという部位にカヴェオリンー1と結合して存在する。このカヴェオリンー1はNO合成酵素の活性を抑制しているが、スタチンはこれの発現を著明に抑制することから、NO合成酵素が活性化しやすい状態になる。また、NAD(P)H oxidase の活性を抑制することによってスーパーオキシド・アニオン(O2-の産生を低下すると共に、スーパーオキシド・アニオン(O2-)をH2Oへ変えるCu/Zn SODの産生を増加して、抗酸化作用を示すことが明らかとなっている。内皮細胞から遊離されるエンドセリンー1はNAD(P)H oxidaseの発現を増加してスーパーオキシドの産生を増加するが、スタチン系薬剤はこのエンドセリンー1の産生を抑制することが報告されている。
以上のスタチンによる内皮細胞に対する効果及びコレステロール低下作用によって、動脈硬化が抑制される。


 スタチン系薬剤による上記の種々の作用は、コレステロール合成阻害作用と全く無関係では無い。次の図を見ていただきたい。スタチン系薬剤は、コレステロールを低下すると共にユビキノン(CoQ10)を減少させ、この減少が横紋筋融解症と関係がある可能性について上記した。スタチン系薬剤によってゲラニルゲラニルピロリン酸が少なくなると、Rho A(低分子量G蛋白質)の膜への移行に必要なゲラニルゲラニル化が低下し、Rho Aの活性化が阻害される。Rho Aの活性化が阻害されるとeNOSの発現が増加する。NO合成酵素のmRNAは非常に不安定であることが報告されている。Rho Aはこの不安定化を助長するが、rho Aの活性が低下すると、結果的にNO合成酵素タンパクが増加することになる。また、racというタンパクはNADPH oxidase の構成タンパクである。このracの活性化がNADPH oxidaseの活性化には不可欠であるが、スタチン系薬剤によってゲラニルゲラニルピロリン酸が少なくなると、このracがゲラニルゲラニル化がされにくくなり、結果的にNADPH oxidase活性が低下することになる。一方、rho Aがゲラニルゲラニル化されると、カスパーゼ活性が亢進する。カスパーゼはDNAを損傷して肝細胞のアポトーシス(細胞の自殺)を誘導して肝障害を惹起することになる。つまり、スタチン系薬剤によるコレステロール低下作用や抗動脈硬化作用が強ければ強いほど、肝障害も強くなることになる。


 この他、アディポネクチン受容体を増加させる作用、iNOS の誘導を抑制して血管の炎症を抑制する作用など種々あり、特にアディポネクチン受容体を増加させる作用に関しては今後の研究の展開が期待される。
【副作用】
 四肢近位筋や体幹部のピリピリした感じ、筋肉の圧痛、筋肉痛、筋力低下、脱力感、けいれん、腱の痛みなどがあり、更に横紋筋融解症という重い副作用も見られる。横紋筋融解症とは、骨格筋の融解、壊死によってミオグロビンやクレアチンキナーゼなどの細胞成分が血中へ流出した状態をいう。原因としては、ユビキノン(CoQ10)の低下、筋肉細胞のアポトーシスなどが考えられる。したがって、スタチン系薬剤を投与する場合は、CoQ10 を同時に補助約として投与する場合が多い。なお、セリバスタチンというスタチン系薬剤は、この副作用が強く出たため、販売中止となった。
 また、肝機能障害、腎障害、便秘、腹痛、などの消化器症状、倦怠感、発疹、顆粒球減少症、汎血球減少症などがまれに見られる。また、LDLコレステロールが著明に低下した例では、癌が誘発される可能性が否定出来ないので、スタチン系薬剤によるLDLコレステロール低下作用に関しては、定期的な検査が必要となるかもしれない。
【スタチンの使用禁忌と薬物相互作用】
禁忌:妊婦、妊娠の可能性のある女性、授乳婦
併用禁忌:抗真菌薬(イトラコナゾール、ミコナゾール)やシクロスポリン
併用注意:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、HIVプロテアーゼ阻害薬、H2ブロッカー

2 フィブラート系薬剤   本ページの先頭へ

 この系の薬剤には、クロフィブラート、クロフィブラートアルミニウム、クリノフィブラート、シンフィブラート、ベザフィブラートフェノフィブラート、ゲムフィブラートなどがある。

 フィブラート系薬剤は、PPARα という転写因子に結合して種々の遺伝子の転写を促進することによって、種々の蛋白質合成を促すことによる。前述しているが、PPAR (peroxisome prolierator-activated receptor) にはPPARαPPARγPPARδの三種の分子種がある。PPARαは肝臓、骨格筋、褐色脂肪細胞に多く発現し、脂肪酸燃焼、エネルギー消費、摂食抑制などに関与し、フィブラート剤や長鎖脂肪酸などによって刺激される。PPARγは白色脂肪細胞に多く発現し、脂肪細胞分化、脂肪蓄積、抗炎症、コレステロール逆輸送などに関与し、チアゾリジン誘導体、15d-PGJ2、アラキドン酸、リノレン酸、などによって刺激される。PPARδは肝臓、骨格筋に多く発現し、脂肪酸燃焼、エネルギー消費、抗炎症、コレステロール逆輸送などに関与し、長鎖脂肪酸などによって刺激される。

次の図を見ていただきたい。フィブラート系薬剤は、転写因子PPARαに結合し、PPARα はプロモーター部位に結合して各種遺伝子の転写を促進したり、抑制する場合もある。どんな蛋白が増減するかというと、リポタンパクリパーゼ(LPL )、FATP (fatty acid transportProtein) ApoA-1あるいは ApoA-2などの各タンパク質は増加するが、ApoC-IIIの発現は抑制される。LPLが増加することにより、VLDLの中性脂肪の分解が促進され、また、分解産物である脂肪酸はその輸送タンパク質であるFATPが増加することにより、VLDLあるいはカイロミクロンの肝臓への取り込みを促進する。リポタンパクリパーゼ(LPL)に対してApoC-II はの活性を促進し、ApoC-IIIは逆に活性を抑制する。フィブラート系薬剤によってLPLが増加し、ApoC-IIIの発現が抑制されることは、VLDLの代謝が促進されることを意味する。上記のように、VLDLLPLによって代謝(異化)されてLDLへと変換されて中性脂肪は減少する。また、ApoA-1あるいは ApoA-2などが増加することによってHDLの産生が増加する。つまり、中性脂肪が代謝によって減少し、善玉コレステロールと言われるHDLが増加することになる。VLDLが代謝されて産生された脂肪酸は肝臓へ運ばれて、β酸化を受ける。フィブラート系薬剤はβ酸化に関与する遺伝子の発現も増加することが知られている。



次に、フィブラート系薬剤によってPPARαが刺激され、リポタンパクリパーゼが増加する過程をもう少し丁寧に観察してみよう。通常、フィブラート系薬剤は脂肪細胞や骨格筋細胞においてLPLの発現を増加する。しかし、図の如く、VLDLは血管内皮細胞の表面に存在するLPLに結合して代謝されることになっている。脂肪細胞において増加したLPLが内皮細胞の膜面にどのようにして動くのか、筆者なりに想像を逞しくして推理してみたい。まず次の上図を見ていただきたい。VLDLが内皮細胞上のLPLに接しているところである。これでは何かなんだか分らないので、その部位を拡大してみたのがその下の図である。フィブラート系薬剤が脂肪細胞に作用して転写因子であるPPARαを刺激してLPLmRNAが産生されるとリボソームにおいてタンパク質へ変換される。では、そのLPLはどのようにして内皮細胞上までたどり着くのか?次にその点を考えてみる。



この疑問は少しマニアックな点があるかも知れない。しかし、脂肪細胞で産生されてLPLが内皮細胞の表面に出てくる過程については知っていてもおかしくはないだろう。まず、フィブラート系薬剤によってPPARαが刺激されると、上記のしたように脂肪細胞においてLPLが増加する(下図)。これは、分泌された後にエンドサイトーシスという取り込み機構によって内皮細胞に取り込まれる。取り込まれた後、内皮細胞の表面に接着している糖タンパクであるプロテオグリカンに結合する。プロテオグリカンはマイナスに荷電しており、LPLはプラスに荷電している。プラスとマイナスでお互いに引き寄せられて、プロテオグリカン上にLPLが結合し、LPLが血流側に曝される。このような状態の時、VLDLやカイロミクロンが血流によって運ばれてくると、VLDL粒子の表面についているApo C-IIによってLPLが活性化される(なお、上記したようにApo C-IIILPLの活性を抑制する)。活性化されたLPLVLDL内の中性脂肪を遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールに分解する。遊離脂肪酸は肝臓へ運ばれて、肝細胞上のFATP (fatty acid transport protein; 脂肪酸輸送タンパク)によって肝細胞内へ取り込まれる。フィブラート系薬剤はこのFATPの発現を増加することは上記した。細胞内へ取り込まれた遊離脂肪酸は、中性脂肪合成の原料になることなく、ミトコンドリア内へ取り込まれて、β酸化を受ける。このようにしてVLDLやカイロミクロン中の中性脂肪は減少していく。



【閑話休題】  本ページの先頭へ

リパーゼが非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきたので、ここでリパーゼについて簡単にまとめたい。上記したように、リポタンパクリパーゼ(LPL)は脂肪細胞、骨格筋、心筋、マクロファージやその他肝臓、肺、腎臓、脾臓、動脈、乳腺などにおいて発現することが知られている。ピオグリタゾンやフィブラート系薬剤は脂肪細胞のLPL発現を増加する(タンパク質の量を増加する)が、インスリンはこの活性を上昇させることが知られている。インスリンを投与すると、脂肪細胞がやや肥大化していくが、これはLPLの活性を上げて、VLDLやカイロミクロンの中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解し、脂肪酸を脂肪細胞へ運び、ここで中性脂肪として貯蔵する結果である。

脂肪細胞中には、ホルモン感受性リパーゼというリパーゼがある。交感神経から遊離されるノルアドレナリンや副腎髄質から分泌されるアドレナリンが脂肪細胞のβ3受容体に結合すると、脂肪細胞内においてcyclic AM Pが増加する。このcyclic AMP はプロテインキナーゼAに結合してこれを活性化し、このプロテインキナーゼAがホルモン感受性リパーゼを活性化して、中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解する。なお、インスリンはホルモン感受性リパーゼの活性を低下して脂肪細胞内の脂肪分解を抑制する。つまり、インスリンは脂肪細胞内に中性脂肪をため込み、分解を抑制することになる。

リパーゼのなかには、肝性リパーゼという脂肪分解酵素もある。Hepatic triglyceride lipase (HTGL) は、IDLHDL2の中性脂肪を分解する。

 フィブラート系薬剤はLPLを活性化することによってVLDLやカイロミクロンを代謝し、中性脂肪を減少すると共に、HDLの産生を上げることによって、脂質異常症を改善する。糖尿病や脂質異常症患者さんのVLDLは中性脂肪が多い(triglyceride-rich VLDL)。この中性脂肪の多いVLDLLDLIDLを経てsmall dense LDLへ代謝されるが、このsmall dense LDLはマクロファージに取り込まれやすい(下図)。一方、正常VLDLIDLを経て、LDLへと代謝されるが、このLDLはマクロファージへ直接取り込まれない。内皮細胞上においてスーパーオキシド(O2- )によって酸化されたLDLがマクロファージへ取り込まれることによってマクロファージが徐々に大きくなり、泡沫細胞へと変化していく。フィブラート系薬剤は中性脂肪の多いVLDLを正常VLDLへと変化させることから、抗動脈硬化作用を示すことになる。また、フィブラート系薬剤はApoA-1あるいは ApoA-2の発現を増加する。これらのタンパク質はHDLの構成タンパクであることから、HDLの産生が増加する。HDLは粥状動脈硬化部位よりコレステロールを引き抜く作用がある。結局、フィブラート系薬剤はVLDLの正常化とHDLを増加させる両方の作用によって動脈硬化を著明に抑制することになる。

スタチン系薬剤に多面的効果 (pleiotropic effects)がああるように、フィブラート系薬剤による多面的効果について以下、記述したい。


【フィブラート系薬剤による多面的効果 (pleiotropic effects) 本ページの先頭へ

 a 血管機能に対する効果

 活性酸素種の刺激やTNFαの刺激によってNF-κB が活性化されると、VCAM-1 遺伝子が転写されて、これが単球を接着して、この単球がマクロファージへ変換されて粥状動脈硬化の一因になることは既に何度か前記している。フィブラート系薬剤はPPARαを刺激することにより、この転写を抑制する(下図)。また、エンドセリンー1(ET-1)は転写因子であるAP-1 によって転写が促進されるが、PPARαが刺激されるとこの転写が著明に抑制される。産生されたET-1 NAD(P)H oxidase の産生を促進し、スーパーオキシド(O2-)産生を促進してNOを不活性にする。NOの不活性は、VCAM-1の誘導やエンドセリンー1産生の増加など種々の影響を及ぼすことによって、動脈硬化が悪化することになる。



フィブラート系薬剤はPPARαを介して、スーパーオキシド(O2-)を消去するCu/Zn SODの産生を促すと共に、NO合成酵素の産生も促進する(下図)。フィブラート系薬剤によるこのような機序によって、内皮細胞の機能が改善され、単球の接着やLDLの酸化LDLへの変換などが抑制されると共に、HDLが増加することによってコレステロールが動脈硬化巣から引き抜かれて動脈硬化は改善すると推察される。また、前記したように、small dense LDLは中性脂肪の多いVLDLから産生されるが、フィブラート系薬剤はこのVLDLを正常VLDLへ変換することにより、マクロファージへ取り込まれるsmall dense LDLが減少することによっても動脈硬化に対する効果を示す。



b 抗炎症作用

 血管をインターロイキンー1β(IL-1β)によって刺激すると、IL-6、プロスタグランジン類、プロスタグランジンを合成するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)が産生され炎症を惹起するが、フィブラート系薬剤はこの転写過程を抑制して抗炎症作用を示す(下図)。



c 抗血栓作用

 ヒトの血管では、健常者においても1日に数回は血栓が生じるが、この血栓はプラスミンというタンパク分解酵素によって溶解される。プラスミンは、組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)によって産生される。ところが、このt-PAを抑制するplasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)が内皮細胞や脂肪細胞などから分泌されることが知られている。酸化LDLの濃度が上がると、t-PAの放出を抑制し、PAI-1の発現を亢進することによって血液の凝固を促進するが、これに対してフィブラート系薬剤はPAI-1の発現を抑制性に調節すると云われている(下図)。なお、フィブラート系薬剤による血液凝固系に対する作用に関しては今後の研究による解明が待たれる。



【フィブラート系薬剤の副作用と適用上の注意】

 フィブラート系薬剤は、著明な副作用を示さない。主な副作用として、横紋筋融解症、肝機能障害、胆石、黄疸、胃腸障害、頭痛、めまい、発疹、白血球減少、線溶系亢進、不整脈、脱毛、性欲低下などがある。注意すべき点としては、腎機能、肝機能障害や胆石の有無を確認することや、授乳婦の場合、授乳を中止すること、スタチン系薬剤を投与している患者や高齢者には注意を払い必要がある。フィブラート系薬剤はインスリン抵抗性を改善する作用があることから、インスリンや経口血糖降下薬を服用している患者に対しては低血糖に注意しながら慎重投与する必要がある。

3 プロブコール   本ページの先頭へ

 プロブコール下図の如く、特徴的な構造式を示し、もともとはゴムの酸化防止剤として開発されたが、後にコレステロール低下作用を示すことが判明した。本剤は、LDLコレステロールを10~20%低下する作用を示すと同時にHDLコレステロールをも30%低下する。しかし、プロブコールによる抗酸化作用によるためか、著明な抗動脈硬化作用を示す。しかし、その抗動脈硬化作用の詳細な機序は未だ明らかにされていない不思議な薬物である。

 コレステロールは肝臓において水酸化(OH基の付加)によって胆汁酸に代謝される(下図)。プロブコールはこのコレステロールから胆汁酸への代謝を促進することが知られている。また、胆汁酸は胆管を介して十二指腸へ分泌されるが、この分泌をもプロブコールは促進する。実は、この胆汁酸が排泄されるなら、肝臓におけるコレステロールは著明に減少することになるが、胆汁酸は門脈を介して再び肝臓へ戻る。これを腸肝循環という。したがって、プロブコールによるコレステロール低下作用は上記の作用だけでは説明できない。


 未熟HDLは円板状の形をしており、小腸や肝臓において産生され、直接血中へ分泌される(下図参照)。未熟HDLが血中へ分泌されると、末梢組織において遊離コレステロールを引き抜く。血漿中に存在するLCAT (lecithin-cholesterol acyltransferase) HDL中のApo A-1によって活性化され、コレステロールをコレステロールエステルとする。HDL2は、VLDLLDLHDLの間で、コレステロールとトリグリセリドを交換する(下図の右下)。HDLVLDLからトリグリセリドを取り込み、VLDLLDLHDLからコレステロールエステルを取り込む。交換反応である。この交換反応は、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP; cholesterol ester transfer protein)という酵素によって行われる。HDL2はその後、肝臓へ運ばれて取り込まれる。プロブコールはこの交換反応を促進することによって、LDLコレステロールを低下する。コレステロールエステル転移タンパク質を介した交換反応が進むと、HDLコレステロールは低下するが、血管壁からのコレステロール引き抜き作用は増加することになる。このことより、HDLコレステロールが低下しても抗動脈硬化作用を示す一因ともなる。

プロブコールによるHDLコレステロール低下作用は、上記した作用以外にも肝臓におけるHDL受容体(SR-B1)を増加し、HDLを積極的に取り込む作用もある(下図)。しかし、プロブコールの作用機序は難しく、未だ十分に解明されていないのが現状である。


 プロブコールはもともと抗酸化剤として開発されたことから、当然抗酸化作用を示す。例えば、LDLが酸化LDLへと酸化される過程において抗酸化作用を示し、この作用も抗動脈硬化作用の一因となっている(下図)。プロブコールによる抗動脈硬化作用は、抗酸化作用の他に内皮細胞の機能を改善する作用もあり、この作用も動脈硬化の伸展阻止の上から重要と考えられるが、今後の研究課題であろう。

【副作用】

 心電図上のQT延長や不整脈が見られる。定期的に心電図検査を行う必要があろう。その他、横紋筋融解症、消化管出血、末梢神経炎などがまれにみられる。

4 コレステロール吸収阻害薬   本ページの先頭へ

 食餌由来コレステロールや胆汁酸由来コレステロールは、小腸粘膜上に存在するコレステロール輸送蛋白によって取り込まれる。この蛋白をNiemann-Pick Like 1 (NPC1L1)と呼ぶ(下図)。エゼチミブはこの蛋白を特異的に阻害し、コレステロールの吸収を阻害する。スタチンなどのHMG-CoA阻害薬はコレステロールの吸収を促進することが知られているので、このエゼチミブを併用することによって、コレステロール低下作用が増強される。


5 ニコチン酸製剤   本ページの先頭へ

 ニコチン酸は欧米では古くから使用されており、中性脂肪低下やコレステロール低下及びHDLの増加などの作用が確認されていた。現在でも欧米ではニコチン酸は、安価で、古くから使用していることから作用の仕方がよく分っていること等の点から良く用いられている。日本では、ニコチン酸そのものは使用されていないが、ニコチン酸誘導体であるニコモールトコフェロールニコチン酸エステル、ニセリトールが使用されているが、スタチンなどが登場してからはその使用頻度が欧米ほど高くない。しかしながら、最近になってニコチン酸の受容体が発見され、俄かにクローズアップされてきつつある。

 脂肪細胞上のβ3受容体にノルアドレナリンあるいはアドレナリンが結合すると、GTP結合蛋白(Gs)を介してアデニル酸シクラーゼ(AC)が活性化される(下図)。アデニル酸シクラーゼはATPcyclic AMPへ変換し、cyclic AMPはプロテインキナーゼAPKA)を活性化する。PKAはホルモン感受性リパーゼを活性化してトリグリセリドを脂肪酸とグリセロールへ分解する。近年、ニコチン酸の受容体が発見され、GRP109Aと名付けられた。ニコチン酸が受容体に結合すると、Giと云う抑制性のGTP結合蛋白を介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、cyclic AMPの生成を抑制する。すると、上記のノルアドレナリンによるホルモン感受性リパーゼの活性は低下し、トリグリセリドは分解されないことになる。遊離される脂肪酸が少ないと、肝臓への供給も少なくなり、肝臓における中性脂肪合成に支障を来たす。この一連の流れによって、肝臓におけるVLDLの生成が少なくなる。特に中性脂肪の多いVLDLtriglyceride-rich VLDL)が少なくなることから、small dense VLDLの産生も少なくなり、動脈硬化の発症・伸展が抑制される。また、VLDLが少なくなるので、LDLも少なくなる。ニコチン酸及びその誘導体は、LDLを12%程度減少し、トリグリセリドも12%程度減少する。しかし、HDLは15%程度増加する作用を示す。LDLの低下については上記した流れで説明がつくが、HDLの増加に関しては未だ十分な研究成果が出ていない。肝臓におけるHDLの取り込み阻害や、コレステロール逆転送系の阻害など、色々な説が考えられているが、今後の研究課題であろう。

ニコチン酸やその誘導体は、末梢毛細血管上におけるリポタンパクリパーゼ(LPL)の活性を上げて、VLDL中のトリグリセリドを脂肪酸とグリセロールへ変えることによって、トリグリセリドが減少する(下図)。

【副作用】

 最も有名な副作用は、フラッシングという、顔面や上半身において熱感や皮膚が赤くなる症状である。この作用は、NSAIDによって抑制されることから、血管において PGI2 PGE2 が生成しているためと考えられる。しかし、フラッシングは、継続的に使用することによって徐々に消失するが、脂質低下作用は低下しないことから、ニコチン酸によるこの副作用は、脂質低下作用とは別な機序によるものであろう。

6 エイコサペンタエン酸製剤   本ページの先頭へ

 グリーンランドで生活するエスキモー人には狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が少ないことが知られていた。その後の疫学調査の結果、魚油の摂取が原因の一つであることが分かった。魚油中には、n-3系(ω-3系)の多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸など)が多く含まれている。これらn-3系(ω-3系)の多価不飽和脂肪酸は生体内において合成出来ないため、摂取する必要がある。n-3系に対して、n-6系の多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸など)は、大豆油、菜種油、ひまわり油などに多く含まれており、日常的に摂取されている。アラキドン酸からは、ロイコトリエン類、プロスタグランジン類、トロンボキサン類などが産生されるが、エイコサペンタエン酸からは同様な物質が産生されるが、その生理活性は低いことが知られている。通常、エイコサペンタエン酸を摂取すると、アラキドン酸と置き換わって種々の代謝産物(トロンボキサンなど)が変化することによって、炎症や血液凝固などの反応が抑制されると考えられている。

 エイコサペンタエン酸EPA)は、脂質低下作用を示す。その作用機序は、SREBP-1cを抑制することにあると考えられている。では、SREBP-1cは何をしているかと云うと、次の図の如く、中性脂肪の合成に関与する種々の酵素の転写を促進する。つまり、EPAによる中性脂肪低下作用は、その合成を抑制することにある。


EPAによって中性脂肪の合成が少なくなると、肝臓におけるVLDLの産生も少なくなることになる(下図)。特に中性脂肪の多いVLDLtriglyceride-rich VLDL)が少なくなる。通常、中性脂肪の多いVLDLは、代謝されてsmall dense LDLへ変換されるが、このsmall dense LDLはマクロファージに取り込まれやすく、マクロファージが泡沫化しやすくなり、粥状動脈硬化の原因物質の一つでもあることから、このsmall dense LDLが減少することから、EPAは抗動脈硬化を示すことになる。



次の図を見ていただきたい。EPAは、フィブラート系薬剤と同様、転写因子PPARαに結合し、これを活性化する。PPARαはプロモーター部位に結合して各種遺伝子の転写を促進したり、抑制する場合もある。フィブラート系薬剤の項で記述したように、LPLの活性化によりVLDLの代謝、脂肪酸の肝細胞への取り込み促進、HDLの増加などを示す。つまり、EPAは中性脂肪合成低下作用と、PPARαを介したLPL活性促進によるVLDL代謝の促進などの面から脂質低下作用を示すことになる。




 血小板が活性化されると、血小板凝集能と血管収縮作用を示すトロンボキサンA2 (TXA2) が産生される。一方、内皮細胞ではプロスタグランジンI2 PGI2)が産生されて、血小板凝集を抑制する。EPA は血小板や内皮細胞内のアラキドン酸と置換して、血小板では、トロンボキサンA3  (TXA3) が産生されるが、この物質による血小板凝集能は弱い(下図)。また、内皮細胞ではプロスタグランジンI2 PGI2)の合成が減少し、プロスタグランジンI3 PGI3)が合成される。この物質は、血小板凝集能を著明に抑制する。EPAは、このような作用によって、抗血栓作用を示すと考えられる。




 EPAは、単球の接着を抑制する作用、プラークを安定化する作用、活性酸素種の産生を抑制する作用なども示し、これらの作用によっても抗動脈硬化作用を示すことが報告されている(下図)。



 EPAによる種々の効果により、アメリカ心臓協会は、適切な食事療法、運動、体重管理、アルコール制限などを行ったうえで、冠動脈疾患の危険のある患者に対して、EPADHAのサプリメントを1 g/日以上摂取することを推奨している。高中性脂肪患者に対しては、EPADHAのサプリメントを2~4 g/日以上摂取することを推奨している。

7 陰イオン交換樹脂   本ページの先頭へ

 本剤は、腸管から吸収されないタイプの薬である。コレスチミドコレスチラミンなどがあり、その作用機序は極めて単純である。コレステロールは肝臓内において、コレステロールー7α―ヒドロキシラーゼによって水酸化されて胆汁酸になる。胆汁酸は胆管を介して十二指腸へ分泌され、脂肪の吸収に無くてはならない重要な因子となる。胆汁酸は、門脈を介して小腸から再度肝臓へ運びこまれて再利用される(下図)。これを腸肝循環という。陰イオン交換樹脂の作用はこの循環を断ち切ることにある。肝臓内への胆汁酸の戻りが少なくなると、コレステロールー7α―ヒドロキシラーゼが活性化されてコレステロールの胆汁酸への代謝が促進される。つまり、肝臓内においてコレステロール含量が減少する。このコレステロールの減少は、LDL受容体の発現を促進させて、血中のLDLを肝臓内へ輸送する。このような過程によって、血中LDL値が低下する。



【副作用】

 最も多い副作用は、便秘や腹部膨満感である。このような副作用はコレスチラミンよりもコレスチミドの方が少ないとされる。胆道閉塞症、イレウスの患者に対しては禁忌である。陰イオン交換樹脂であるため、脂溶性ビタミンA, D, E, Kや葉酸、ジギタリス、ワルファリン、サイアザイド系利尿薬および甲状腺ホルモンなどは服用時間をずらして服用するなどの工夫が必要であろう。


(文責:鎌田勝雄)




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