糖尿病治療薬
内容
【はじめに】
1. 生活習慣の改善
2. インスリン分泌機構とインスリン分泌刺激薬
【スルホニル尿素(SU)薬】
【速効型インスリン分泌促進薬・フェニルアラニン誘導体薬】
3. ビグアナイド系薬剤
4. インスリン抵抗性改善薬・チアゾリジンジオン誘導体
5. αグルコシダーゼ阻害薬
6. インスリン製剤
7. DPPIV阻害剤
【はじめに】
 今からおよそ500万年前、チンパンジーの系統から人類の祖先というか、二足歩行の猿人が誕生したといわれている。人類の祖先はアフリカの大地溝帯辺りで誕生し、ルーシーという一人の女性が我々人類の共通の祖先ということになっている。本当だろうか。イブが想起されるだけに少しだけ宗教くさく、嘘くさいような感じがしないでもないが、かと言って明確な証拠を持って反駁も出来ない。ルーシーという名前は、ビートルズの曲(ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド)から来ている。この曲が流行している時、アフリカで発掘していた古人類学者がこの曲を聞き、人類の祖先にルーシーと名付けたと言われている。筆者自身ビートルズのファンなだけに、なかなか粋な計らいだと思える。ルーシーの骨格から若い女性と想像されているが、しかし、顔そのものはほとんどチンパンジーとは変わらないと思われるので、過剰な期待は抱かない方が良いのだろう。ルーシーの子孫が二足歩行している足跡の化石が残っている。確か、子連れの足跡だと記憶している。その後、ルーシーの子孫から種々の原人が派生した後、ホモ・サピエンスが誕生し現在に至っている。想像するに原人からヒトへ至る過程においては、激しい縄張り争いというか、派閥争いが繰り返されたのだろう。ネアンデルタール人、ジャワ原人、北京原人など種々の原人が次々と現れ、最後に現在のヒトが誕生した。今から70万年から125万5千年前と言われている。別な計算によると、ホモ・サピエンスは今から4万年前という説もある。しかし、わずか4万年前に現在のヒトが誕生したという説にはいささか驚く。このような壮大なドラマの中で筆者が特に想像を逞しくしているのは、この過程において原人やヒトのインスリン分泌能に関する遺伝子、倹約遺伝子あるいは糖新生関連遺伝子はどのように変遷したのかという点にある。検証不可能な想像に過ぎないが、興味が尽きない。
  我々日本人の祖先は、ユーラシア大陸の相当厳しい自然環境の中でかなり長い期間暮らし、食べた物を出来るだけ脂肪として溜め込む倹約遺伝子の獲得というか、このような遺伝的性質を有する者のみが生き残って現在に至っている。このようにでも想像しないと、β3受容体遺伝子変異の多さやインスリン分泌能の低さは説明できない。では何故このような厳しい環境に追いやられたのか、また、どのような暮らしだったのか、筆者の想像の域をはるかに超えている。まさに想像を絶するとはこのことだろう。
糖尿病の基礎知識」のページにおいて記述したように日本人のインスリン分泌能は欧米人の約半分程度である。この現象が日本人の糖尿病を治療する上で最も重要な点と考える。また、「脂肪細胞とインスリン抵抗性」の項において、日本人は倹約遺伝子が発達しており、脂肪を溜め込みやすい性質、つまり、太りやすい性質を示す(その割には欧米人と比較してそれ程の肥満体が少ないのはどう説明すべきか)。いずれにしても、このような背景がある。食の欧米化による動物性脂肪食の摂取や自動車の普及による運動不足など日本人のライフスタイルが変化し、やや小太りの日本人が増加しているのは間違いない。不思議な現象として、男性は小太りのヒトが確実に増えているが、女性(特に若い女性)には小太りの方が少ないのはどうした原因なのか、これは美容のためだろうか、筆者には全く分らない。
 日本人の糖尿病治療を考える場合、次の点は考慮に入れておくべきだと推察する。まず、インスリンの基礎分泌が欧米人と比較して少ない点、β3受容体の遺伝子が変異しており、脂肪細胞に脂肪をたらふく貯め込み、なお脂肪分解が少なくなり、インスリン抵抗性になりやすい遺伝子を有しているヒトが多い点、善玉サイトカインであるアディポネクチンの分泌能が弱く、この現象もインスリン抵抗性を誘発しやすくなる点などである。このような点を念頭に入れて日本人(黄色人種全般に共通していると思われる)の糖尿病治療薬の薬効と副作用を理解すべきと考える。糖尿病治療の場合は、欧米の教科書に掲載されている治療法をそっくりそのまま当てはめて良いかどうかは、かなりと云うか相当な疑問が残る。以下、なるべく日本人の特徴を踏まえて生活習慣あるいは治療薬について記述したい。出来るかどうかはともかく。

日本人の糖尿病の特徴

 日本人の場合、メタボリックシンドロームから糖尿病が発症する割合は約40%であり、非肥満でインスリン分泌障害によって糖尿病が発症する割合は約60%である(下図参照)。

 
 インスリンは脂肪細胞へグルコースを運んだり、脂肪細胞において中性脂肪の分解を抑制したり、合成を促進するなどして脂肪を貯蔵する方向へ働くホルモンである(下図参照)。日本人ははるかな先祖からインスリン分泌が少なくても済む生活をしてきたせいか、もともとインスリン分泌が少なく、小太りによってインスリン抵抗性となり、これが原因で高血糖となる。高血糖状態が持続すると、糖毒性が生じて膵
β細胞の機能障害が生じることになる。



 
 欧米人の場合、空腹時血糖が上昇するにつれてインスリン分泌は上昇し、
140 mg/dlを超えるとインスリン分泌は低下しはじめ、肝糖新生が上昇する(下図参照)。 日本人の場合、インスリン分泌が低く、血糖が120 mg/dl付近でインスリン分泌は低下する。日本人は軽度の体重増加によるインスリン抵抗性でもインスリン分泌低下により糖尿病に移行しやすい。

1. 生活習慣の改善 本ページの先頭へ
  糖尿病の治療には、生活習慣の改善が必須である。具体的には食生活の改善と運動の励行である。どのような優れた薬を服用しても暴飲暴食の生活スタイルをしながら運動不足では糖尿病の治療は無理である。食事療法や運動療法については門外漢である筆者は具体的な事柄については記述出来ない。ただ言えることは、患者さんに一人ひとり特有な食事療方や運動療法があるのではないかと考えるが、これ以上については医師や栄養士のホームページをご覧いただきたい。また、厚生労働省の糖尿病ホームページをご覧いただきたい。運動の具体的なインスリン抵抗性改善効果については記述しているので、参考にしていただきたい。
 さて次の図を見ていただきたい。これは米国のデータである。年間当たりの糖尿病発症率はプラセボ群(対照群)と比較して、生活習慣群(低カロリーと運動)やメトホルミン服用群では有意に低いことが明らかである。しかも糖尿病治療薬であるメトホルミン(後述)よりも生活習慣の方がはるかに糖尿病予防効果においてより著明な効果が見られる。
更に、生活習慣群では血糖値(HbA1c)も低値に維持されたことから、合併症の予防や遅延も期待できるといわれている。次の図においてHbA1c、空腹時血糖値あるいは食後2時間血糖値と、網膜症の悪化率あるいは腎症の悪化率の関係が分る。これは熊本大学代謝内科のデータである。このデータから、HbA1c値が6.5%未満であれば、糖尿病性細小血管障害(網膜症や腎症)は生じないことが明らかであるので、糖尿病の治療目標として、HbA1c値を6.5%未満とするが望まれる。生活習慣の改善(低カロリーと運動)では血糖値が低値に維持されるので、これを持って糖尿病治療の土台とすべきであろう。
 以下、薬物治療について記述する。

2.      インスリン分泌機構とインスリン分泌刺激薬 本ページの先頭へ

食事によって炭水化物が消化・吸収され、血中グルコース濃度が上昇する。このグルコースが各組織へ運ばれてエネルギー源となるが、各組織へグルコースを運ぶホルモンはインスリンのみである。なぜインスリンのみか、その答えは上記した、人類というか哺乳類の誕生過程にあると思われる。ともかく、細胞内へ流入したグルコースはグルコキナーゼによってリン酸化され、G-6-Pとなり、その後、解糖系を経てピルビン酸となり、ピルビン酸はミトコンドリア内へ入り、TCA回路を経て、ATPが産生される(下図参照)。その結果、ATP/ADP比が上昇し、このATPATP感受性K+チャネルを閉鎖する。通常、ATP感受性KチャネルはATP/ADP比の上昇によって閉鎖される。

β細胞内は、-70mV程度マイナスとなっている。プラスに荷電しているK+イオンが外へ流出する分、細胞内はマイナスの方へ傾く。しかし、ある程度マイナスになると、K+イオンが引き寄せられて平衡状態に達する。この平衡状態の電位が-70mV程度となる。ATP感受性K+チャネルが閉じて、プラスに荷電したK+イオンが外へ流出しなくなると、細胞内はプラスの方向へ傾く。これを脱分極という。この脱分極は、グルコース濃度の上昇から数分以内に起こる。-30~-50mV程度まで脱分極すると、それに応じて電位依存性Ca2+チャネルが開き、スパイク電位を発生する。電位依存性Ca2+チャネルからCa2+ イオンが細胞内へ流入する。インスリン分泌にはCa2+ 流入が必須である。Ca2+ イオンは、シンスリン分泌顆粒を刺激してインスリン顆粒の開口放出を引き起こす。分泌顆粒が開口放出する過程には、数種のタンパク質が関与するが、ここでは詳述しない。

なお、膵β細胞には、電位依存性Ca2+チャネルが複数の種類があり、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で抑制されない高グルコース刺激におけるインスリン分泌は血管平滑筋における電位依存性Ca2+チャネルとは別の種類の電位依存性Ca2+チャネルが関与すると考えられている。ここでは、そのチャネルの種類等については詳細に記述しない。例えば、高血圧患者さんは、高血圧治療薬であるジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を服用している場合が多い。この薬物は、抵抗血管の電位依存性Ca2+チャネルに結合して、このチャネルから血管平滑筋へのCa2+流入を抑制することによって血管を拡張させて血圧を下げる。しかし、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬によって膵β細胞上の電位依存性Ca2+チャネルが抑制されたとしても、別なタイプの電位依存性Ca2+チャネルが開き、このチャネルからCa2+ イオンが流入するので、インスリン分泌には支障はない。生体はうまい具合に出来ているものだとつくづく思う。

では、上記のインスリン分泌機構で全て説明できるかというと、そうでもない。ATP感受性K+チャネルが欠損したマウスでも、摂食後にある程度のインスリン分泌がある。このことは、グルコース刺激以外でもインクレチンが細胞内のcAMP濃度を上昇させ、PKAprotein kinase A)によって電位依存性Ca2+チャネルがリン酸化されてCa2+が細胞内へ流入してインスリン分泌を促すことが考えられる(上図参照)。電位依存性Ca2+チャネルがリン酸化されると、Ca2+チャネルは開きやすくなり、開いている時間も長い。インクレチンとしては、GLP-1 (glucagon-like peptide 1), GIR (gastric inhibitory polypeptide), PACAP (pituitary adenylate cyclae-activating polypeptide)などがあり、いずれもインスリン分泌を促進する(後述)。

スルホニル尿素(SU)薬 本ページの先頭へ

SU剤には、第一世代(トルブタミド tolbutamideグリクロピラミド glyclopyramideアセトヘキサミド acetohexamideクロルプロパミド chlorpropamide、グリブゾール glybuzole)、第二世代(グリクラジド gliclazideグリベンクラミド glibenclamide)、第三世代(グリメピリド glimepiride)などがある。

(注:上記、各薬物の添付文書のURLを示したが、色々あるので適当に選択した。別な商品を探したい場合は、次のURLをご覧ください。)http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html




 
これらの薬物は膵β細胞のATP感受性K+チャネルに結合して、このチャネルを閉じて膜を脱分極させ、電位依存性Ca2+チャネルを開口し、Ca2+イオンを細胞内へ流入させることによってインスリンの分泌を促進する。SU剤の結合部位を下記の図に示す。下記の図において、SURとは、sufonylurea receptor 1(SU剤受容体1)であり、SU剤はこの部位に結合し、カリウムチャネルであるKir6.2の開閉の調節を行っている。SU剤がSUR1に結合すると、Kir6.2は閉じる。

 
 SU剤は、SUR1に結合してカリウムチャネルを閉じるが、SUR1の結合部位は2箇所ある(
下図参照)。一つはBenzamide結合部位(B)で、この部位にはグリベンクラミドやグリメペリドなどが結合する。もう一つはTolbutamide結合部位(T)で、トルブタミド、グリクラジドや非SU剤であるナテグリドなどが結合する。一方、カリウムチャネルであるKir6.2にも薬物の結合部位があり、クラスIa群抗不整脈薬であるジソピラミドやジベンゾリンあるいは、ニューキノロン系抗菌薬であるガチプロキサシンなどが結合してカリウムチャネルを閉じる。従って、これらの薬物は本来の作用以外に低血糖という副作用を生じることになる。
 
グリベンクラミドが最も作用が強く、トルブタミドは穏やかな作用を示す。ほとんどの
SU剤は血中タンパク(アルブミン)と結合している。グリクラジドの血糖降下作用はグリベンクラミドの半分程度であるが、血小板機能改善作用や抗酸化作用がある。

 グリメピリドは、化合物中にスルホニルの構造を有しており、作用機序もSU剤とほぼ同様であるが、インスリン抵抗性を改善する作用もあると考えられている。インスリン抵抗性を改善する作用の一つの機序として、肝臓における解糖促進、糖新生抑制、骨格筋や脂肪細胞における糖取り込み促進(GLUT4を活性化する)などが考えられる。このような特徴を示すことから、肥満や低血糖を起こしにくい可能性があることから、SU剤を選択する時の重要な目安になる。

SU剤の問題点】 

1.      低血糖

 最大の副作用として、重篤かつ遅延性の低血糖を来す。低血糖の症状としては、血糖値の低下とともに、空腹感、あくびなど、 倦怠、めまいなど  手指振戦、冷汗、動悸など  痙攣、意識障害などが現れる。

2.      心血管系に対する作用

 心臓に酸素と栄養を供給する冠血管の場合を考えてみる。この血管にもATP感受性K+チャネルは存在するが、通常はATPが豊富なことから閉じている。しかし、狭心症や心筋梗塞などの場合、酸素不足となり、ATPの産生が減少する。ATP感受性K+チャネルはATPによって閉じることから、ATPが不足すると、このチャネルは開き、過分極して血管は拡張することになる。つまり、自己防衛的な現象である。しかし、SU剤を服用していると、ATP感受性K+チャネルは閉じたままで、上記の防衛反応が生じないことになる。しかしながら、グリメピリドにはこのような作用が少ないと報告されている。

3.      肝機能異常

 SU剤は、肝臓で代謝され、腎臓で排泄されるため、これらの臓器の障害には注意が必要である。また、高齢者では

4.      二次無効

 SU剤を服用し続けていると、次第に血糖降下作用が低下することがある。これは恐らく、膵β細胞の疲弊によるものと思われる。元々、2型糖尿病患者さんのβ細胞は疲弊しているので、この状態の時にSU剤によって無理やりにインスリンを分泌することになるので、β細胞の疲弊は進行すると思われる。このような場合、生活習慣を改善しても効果が得られない時はインスリン療法に切り替えるべきと思われる。

5.      体重増加

 体重が増加する傾向にある。肥満を伴う糖尿病患者さんは、SU剤投与と共にさらに体重が増加することがあるので、食事療法、運動療法は欠かせない。

速効型インスリン分泌促進薬・フェニルアラニン誘導体薬 本ページの先頭へ

 日本人2型糖尿病の特徴である初期インスリン分泌障害に有効

 非SU剤は次のような特徴を示す。

1)日本人2型糖尿病の特徴である初期インスリン分泌障害を 改善し、食後高血糖・食後脂質異常を改善する。また、 分泌刺激時間が短い。
2)インスリン分泌刺激時間が短いため、低血糖が少なく、 体重増加もない。
3)膵β細胞のアポトーシスを惹起する程度は軽く、二次無効を回避できる。
4)インスリン抵抗性改善作用を示す。
5)肝臓において、糖取り込みを増加し、糖新生を抑制すると共に、脂肪合成を抑制して肝脂肪含量を低下させる。
6)2型糖尿病患者において、中性脂肪やVLDLなどの食後高脂血症を改善する。これは、リポタンパクリパーゼの活性化によるものとされている。
7)単剤では、体重増加は無いが、他のSU剤との併用において体重増加が見られる。
8)二次無効が現在までに報告されていない。


 ナテグリド nateglideミチグリニドカルシウム化合物 mitiglinide calcium hydrate は化合物中にスルホニル尿素の構造を持たない。ナテグリドの作用機序はSU剤とほぼ同様であるが、ただ、SU剤と少し異なる作用も有する。ナテグリドは、細胞内にCa2+ イオンを流入させることなく、ナテグリドが直接インスリン分泌顆粒に作用して、インスリン分泌を促進する作用もある。吸収が速く血糖降下作用が速やかに現れ、速やかに消失するので、食前に投与して食後の高血糖を抑制する。従来のSU剤より低血糖が少ないと言われている。SU剤は膵β細胞のアポトーシス(細胞の自殺)を誘導するが、ナテグリドは作用時間が短いためか、このような作用は軽微であると言われている。

3.      ビグアナイド系薬剤  本ページの先頭へ

肥満を伴う糖尿病に有効

 古くから使用されていた薬物だが、近年作用機序が明らかとなり注目されている。メトホルミン metforminブホルミン buformineが販売されており、肥満型の糖尿病に有効である。ビグアナイド系薬剤の薬理作用のほとんどはAMPキナーゼを活性化することにある。AMPキナーゼについては運動とインスリン抵抗性改善作用の項において既に記述しており、また、脂肪細胞から遊離される善玉サイトカインであるアディポネクチンの作用の項でも記述している。くどいようだが、もう一度、図を出す。下図の如く、骨格筋においてアディポネクチンは受容体に結合し、AMPキナーゼを活性化してGLUT4を膜へ移動させ、グルコースを取り込む作用や、ACCの活性を低下することにより、マロニルCoA濃度を減少させ、その結果、脂肪酸がミトコンドリア内へ入り、脂肪酸の燃焼が促進されて細胞内脂肪酸濃度を下げることによってインスリン受容体以降のシグナル伝達を促進する作用がある。メトホルミンの場合、AMPキナーゼを直接活性化する。では、実際にそのデータをみてみる。
 
 

では、実際にメトホルミンのAMPキナーゼやACCに対する作用についてデータをみてみる。下図の如く、メトホルミンはAMPキナーゼの活性を著明にかつ濃度に依存して増加する。



 次の図では、メトホルミンのACCに対する作用を示しているが、ACCの活性化は、メトホルミンの濃度と共に著明に抑制されている。

脂肪酸が合成される最初の過程は、アセチルCoAからマロニルCoAへ変換されることから始まる。ACCはこのアセチルCoAからマロニルCoAへ変換される過程を促進するが、AMPキナーゼによってACCがリン酸化されると、アセチルCoAからマロニルCoAへ変換されなくなり、骨格筋細胞内のマロニルCoA濃度が減少する。通常、マロニルCoAは脂肪酸をミトコンドリア内へ輸送するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1 CPT1)を抑制しているが、上記の過程によって細胞内のマロニルCoA濃度が減少すると、このCPT1は抑制から解放されて、脂肪酸をミトコンドリア内へ輸送することになる。ミトコンドリア内へ輸送された脂肪酸は、β酸化によって代謝されることになる。では、メトホルミンによってこの過程はどうなるか、次の図を見ていただきたい。図の如く、β酸化が著明に増加していることが明らかである。

次の図において、脂質合成酵素遺伝子発現に重要な転写因子であり、且つ、IRS2の発現を抑制するSREBP1c (sterol regulatory element binding protein-1c) に対するメトホルミンの作用を示しているが、メトホルミンはSREBP1cの発現を著明に抑制することがあきらかである。SREBP1cは、インスリンによって著明に発現が増加し、脂肪酸合成に関与する。メトホルミンはこのインスリンの増加に対して抑制作用を示す。

メトホルミンの肝臓に対する作用はAMPキナーゼの活性を介すると言われている。それを次の図にまとめる。メトホルミンは肝臓において、1糖新生の抑制(PEPCK発現抑制)、2ACCや脂肪酸シンターゼ(fatty acid synthase; FAS)の発現を抑制することによって脂質改善作用(脂肪酸やVLDLの合成抑制)など、多彩な作用を示す。

以上のビグアナイド剤の種々の特徴により、肥満型の糖尿病に有効であると言われている。日本人の場合、小太りによって糖尿病が発症した場合にも有効であると思われる。筆者も最近、少しお腹が出てきつつある。糖尿病を発症した場合は、まずこの種の薬物を医師に所望しようかと考えている。以上、余談でした。

【ビグアナイドの問題点】

高齢者、肝臓、腎臓心機能低下あるいはアルコール摂取の多い患者が服用すると、乳酸アシドーシスが現れることがある。これは、肝臓において、ピルビン酸から乳酸への代謝が促進されているためである。

4. インスリン抵抗性改善薬・チアゾリジンジオン誘導体  本ページの先頭へ

体重を問わず、インスリン抵抗性伴う糖尿病

 チアゾリジンジオン誘導体であるピオグリタゾンやロシグリタゾンは、転写因子であるPPARγ(peroxisome prolierator-activated receptor γ)に結合しこれを活性化する。PPARγは圧倒的に脂肪細胞に存在するので、本剤の主たる作用臓器は脂肪細胞にあると考えられている。PPARにはPPARα、PPARγ、PPARδの三種の分子種がある。PPARαは肝臓、骨格筋、褐色脂肪細胞に多く発現し、脂肪酸燃焼、エネルギー消費、摂食抑制などに関与し、フィブラート剤や長鎖脂肪酸などによって刺激される。PPARγは白色脂肪細胞に多く発現し、脂肪細胞分化、脂肪蓄積、抗炎症、コレステロール逆輸送などに関与し、チアゾリジン誘導体、15d-PGJ2、アラキドン酸、リノレン酸、などによって刺激される。PPARδは肝臓、骨格筋に多く発現し、脂肪酸燃焼、エネルギー消費、抗炎症、コレステロール逆輸送などに関与し、長鎖脂肪酸などによって刺激される。このうち、PPARγについて概説する。PPARαについては脂質異常症治療薬のページにおいて、フィブラート系薬剤の薬理作用とともに概説する予定である。

脂肪細胞次の図に示すように、ピオグリタゾンによってPPARγが刺激されるとRXRの複合体がプロモーター部位に結合し、コーアクチベーターの存在下に種々のmRNAを転写し脂肪細胞の分化を促進する。具体的には、LPL(リポ蛋白リパーゼ)、脂肪酸輸送蛋白(FATP)やCD36などを転写する。


PPARγを介してLPL(リポ蛋白リパーゼ)の発現が促進され、VLDLやカイロミクロンの中性脂肪を脂肪酸へと分解する。同様に、脂肪酸輸送蛋白(FATP)やCD36を発現し、脂肪酸の脂肪細胞への取り込みを促進する。また、細胞内において産生されるグリセロールや取り込まれたグリセロールは、グリセロールキナーゼによってリン酸化されグリセロール3-リン酸となり、このグリセロール3-リン酸と脂肪酸が結合してトリグリセリド(中性脂肪)となり、脂肪細胞に貯蔵される(下図)。



 通常、脂肪細胞においてはグリセロールキナーゼの活性は無いと参考書には記載されている。しかし、ピオグリタゾン等によってPPARγが刺激されると脂肪細胞において、グリセロールキナーゼが著明に発現される(Nature Med. 8: 1122-1128, 2002。これらのことより、ピオグリタゾンは小型の脂肪細胞が増加すると共に、血中の遊離脂肪酸及びグリセロールを脂肪細胞へ運ぶことによって、これらの血中濃度を低下させる。

一方、肥大化した脂肪細胞はアポトーシス(細胞の自殺)により、少なくなる。肥大化脂肪細胞及びその周囲のマクロファージからは、インスリン抵抗性を惹起する遊離脂肪酸、TNFα、レジスチン、MCP-1PAI-1などが分泌されている。結局、ピオグリタゾンによって肥大化脂肪細胞が減少すると、これらの物質の分泌も減少する。肥大化脂肪細胞においては、インスリン感受性を良くするアディポネクチンの分泌が低下している。ピオグリタゾンによってPPARγが刺激されると、小型脂肪細胞が増加すると共に、PPARγはアディポネクチンの転写を促進し、血中アディポネクチン濃度が増加し、このアディポネクチンがインスリン抵抗性を改善することになる(下図)。


または、

つまり、ピオグリタゾンの主作用は、脂肪細胞に作用し、上記の現象を誘導し、インスリン抵抗性を改善する。日本人の場合、アディポネクチンの分泌が減少していることから、ピオグリタゾンによるアディポネクチン増加作用は有利となる。ピオグリタゾンは、脂肪細胞に対する上記の作用により、小型脂肪細胞が増加して体重が増加する。ヒトでは、ピオグリタゾンは内臓脂肪を減少し、皮下脂肪を増加する。つまり、脂肪細胞が内臓から皮下へ移送されることになる。日本人の場合、小太りの状態でも内臓脂肪が付き易い性質があることから、この作用は有利になると思われる。

骨格筋:ピオグリタゾンは、骨格筋においてインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性が回復する。ピオグリタゾンはPI3キナーゼ活性を増加する作用がある。TNFαは、IRS-1のセリンリン酸化を介してインスリン抵抗性を示すが、ピオグリタゾンはTNFα濃度を下げる。ピオグリタゾンによる本作用は、骨格筋細胞においてTNFαの産生を抑制することによる。

肝臓:肝臓におけるPPARγの発現は少ない。したがって、ピオグリタゾンの作用は骨格筋や脂肪細胞とは異なる可能性がある。アディポネクチンの増加により、AMPキナーゼ活性が増加し、AMPキナーゼが糖新生を抑制することによって肝臓からの糖放出を抑制する。

 以上のピオグリタゾンの薬理作用を次の図にまとめる。

 なお、ピオグリタゾンやロシグリタゾンはAGEの受容体であるRAGEの発現を著明に増加する。ヒトの内皮細胞にTNFαを処置すると、RAGEが著明に増加するが、ピオグリタゾンはこの増加を抑制する。AGERAGEに結合すると、活性酸素の産生や、NO合成酵素の不活化などを介して糖尿病性血管合併症を誘発することが知られているが、ピオグリタゾンはこれを改善することを意味する。

問題点

 初期のPPARγ刺激薬であるトログリタゾンには肝障害が報告されているが、ピオグリタゾンの場合、米国における市販後の副作用調査による重篤な肝障害は報告されていない。日本における市販後の副作用調査によると、肝障害は大きな問題とならないと報告されている。

 むくみ(浮腫)が見られることがまれにある。ピオグリタゾンは、腎臓においてNaの再吸収を促進する。ピオグリタゾンによる浮腫は、このNaイオンによるものであると推測されている(下図参照)。したがって、心不全を起こしやすい患者に対しては慎重な投与が必要となる。ピオグリタゾンは、集合管の上皮細胞ナトリウムチャネル(ENaC)を活性化して、上皮細胞内へNa流入を促進する。細胞内へ入ったNaは、ナトリウムポンプによって汲みだされる。汲みだされたNaイオンは、一旦細胞外へ出てから、毛細血管へ流入して血液中のNa濃度を上げる。
 

5.      αグルコシダーゼ阻害薬
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インスリン分泌障害によって食後高血糖になるようなインスリン非依存性の病態

 この系の薬物には、アカルボースボグリボースミグリトールがある。作用機序は極めて単純である。食事により摂取された炭水化物は、小腸においてαアミラーゼによって分解され、二糖類になる。二糖類は、小腸膜上(刷子縁膜上)に存在するαグルコシダーゼ(マルターゼ、サッカラーゼ、ラクターゼ)により、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース)に分解される。グルコースは、小腸粘膜細胞上に存在するNa・グルコース共輸送担体(SGLT1)によってNaと共に細胞内へ輸送される。αグルコシダーゼ阻害薬が小腸内に存在すると、本剤はαグルコシダーゼに結合するが、単糖類に分解されない下図の左参照)。

αグルコシダーゼ阻害薬は上記の作用によって、二糖類の分解を阻害する。分解が阻害された二糖類は、回腸まで輸送され、この部位において分解されて単糖類となり、吸収される。したがって、食後の急激な血糖値の上昇は抑制される。また、血糖値が徐々に上昇するため、インスリン分泌もそれに応じて徐々に分泌されることになり、高インスリン血症が改善されることになる。食後の急激な高血糖は、血管合併症を惹起しやすくなる。恐らく、AGEsが産生されて活性酸素を産生したり、NO合成酵素の活性が抑制されるためだと考えられる。

二糖類が回腸まで輸送されてもまだαグルコシダーゼ阻害薬によって単糖類へ分解されない場合、二糖類は大腸へ運ばれ、この部位において腸内細菌によって消化・発酵されることによって腸内にガスがたまり、放屁の原因や腹部膨満感などの原因となる。本剤を服用中にマラソンなどの運動を行うと、大腸内のガスが一部に集中的に溜まり、そのガスが大腸を圧迫していわゆる腹痛を来す恐れがある。糖尿病患者さんは運動を励行されていると思われるが、このような点も十分に注意を払う必要があろう。

6.      インスリン製剤  本ページの先頭へ

遺伝子工学の進歩により、ヒトインスリンが大量に生産できるようになった。ペプチドであるインスリンは消化管のプロテアーゼによって分解されるため、経口投与ができない。通常、インスリン製剤は皮下に注射される。インスリン製剤は、作用時間より、超速効型、速効型、中間型、混合型、持続型に分けられる(下図)。

超速効型:インスリンリスプロ insulin lispro はインスリン分子のBC末端28番目プロリンと29番目のリジンを相互に入れ替えたもので、2量体の形成ができない。本分子は皮下注射後、速やかに単量体となり、効果も速い。インスリンは、6量体を形成し血中への吸収が遅く、食後高血糖に間に合わなくなる場合があった。本剤は、6量体からすぐに単量体へと変換されることから、血中への吸収が早く、作用持続時間も短い。したがって、本剤を食直前に投与する。また状況によっては、食中あるいは食後直ぐに注射することも可能である。

作用発現まで10~20分、最大作用は1~3時間後、持続時間は3~5時間である。

速効型:正規インスリン製剤である。筋肉内、静脈内注射も可能である。皮下注射後2量体、単量体となってから吸収されるため皮下注射後、30分程度で効果が現れ、最大効果は1~3時間後、持続は約8時間である。

中間型NPHNeutral Protamine Hagedorn)製剤とも呼ばれる。インスリンにプロタミンと少量の亜鉛を加えて結晶化した製剤である。作用発現まで、1.5時間、最大作用は4~12時間、持続時間は約24時間である。患者の頻回注射による負担を軽減すると同時にある程度のインスリン基礎分泌を補うことが可能である。

混合型:速効型と中間型をそれぞれ一定の割合(速効型の比率により10%から50%までの5種類が市販)で混合したものである。特徴は両者の利点を合わせ持つことにある。作用発現まで30分、最大作用は2~8時間後、持続は約24時間である。本製剤は中間型インスリン注射後初期の血糖降下作用の追加が必要な場合に選択すると効果的である。

持続型:インスリン溶液に亜鉛を添加して、インスリンを沈澱、結晶化したものである。吸収が遅く、作用発現まで約4時間、最大作用は8~24時間、持続は24~28時間である。

水溶性超遅効型:インスリングラージンは、B鎖のC末端に2個のアルギニンを追加し、A鎖の21番目のアスパラギンをグリシンに置換したものである。本剤は注射された皮下組織内において結晶化し、この結晶化されたインスリンが徐々に血中へ移行するため、吸収のピークをつくらない。インスリンの基礎分泌の補充に使用される。
(注:インスリンの添付文書に関するURLは35件あります。次のURLをご覧ください。)

http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html

問題点

インスリンによる副作用として、低血糖、アナフィラキシーショック、血管神経性浮腫、皮下脂肪肥大、肝機能障害などがある。

インスリン作用のまとめ



7.      DPPIV阻害剤  本ページの先頭へ

欧米人に比べ、食後高血糖をきたしやすい日本人の2型糖尿病治療に有望

 以前から不思議な現象があった。グルコースを静脈内投与した場合と経口投与した場合、経口投与した方がインスリン分泌ははるかに多いことが知られていた(下図)

その後の研究により、経口投与されたグルコースは小腸の
L細胞に作用してGLP-1 (glucagon-like peptide-1)を分泌し、またK細胞に作用してGIP (glucose-dependent insulinotoropic polypeptide)を分泌することが明らかとなった(下図参照)。これらGLP-1 GIPを総称してインクレチンという。

下図に示すように、インクレチンは膵β細胞内においてcyclic AMPを産生し、protein kinase Aを介して電位依存性Ca2+チャネルをリン酸化することによってCa2+イオンの流入を促進する。このことより、インスリン分泌が促進することになる。したがって、食後、高血糖になる場合、2つの経路によってインスリンが分泌されることになる。一つはグルコースによってATPが産生され、ATP感受性Kチャネルが閉鎖するとによって脱分極し、電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入する経路と、インクレチンによってcyclic AMPが産生され、上述した過程により電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入することによってインスリンの分泌が促進されることになる。

このインクレチンはDPP-IV (dipeptidyl peptidase-IV) によって分解され、血中半減期は5分程度である。このDPP-IVを阻害して血中のインクレチン濃度を上げるとインスリン分泌が増加するだろうと云う概念でDPP-IV阻害薬が開発された(下図)

酸化ストレスと膵β細胞障害

 糖尿病(高血糖状態)状態における膵β細胞障害について考えてみる(下図参照)。高血糖状態になると、グルコースはタンパク質と非酵素的に結合し、メイラード反応によって糖化最終産物である AGEs advanced glycation endoproducts)が産生される。このAGEsAGEs受容体であるRAGEに結合し、スーパーオキシド(O2-)を産生する。グルコースは膵β細胞におけるプロテインキナーゼCを活性化して、やはりスーパーオキシド(O2-)を産生する。更にグルコースは各種SODsuperoxide dismutase; スーパーオキシドを過酸化水素H2O2へ代謝する酵素)に結合してその活性を抑制する。すると、スーパーオキシド(O2-)は失活しにくくなり、これが酸化ストレスの原因となる。もちろん、H2O2やヒドロキシラジカル・OHも細胞の酸化ストレスに関与するが、ここでは出発点であるスーパーオキシド(O2-)についてのみ記述する。

膵β細胞が酸化ストレスに曝されると、JNK (c-Jun N-Terminal kinase)が活性化され、このJNKFoxo1に作用して核外から核内へと移動させて、PDX-1を追い出すことになる(下図参照)。このPDX-1は上記したように膵β細胞の分化・増殖を促す転写因子である。PDX-1という転写因子によって膵臓の細胞がβ細胞へと分化し、またインスリン、グルコキナーゼ、GLUT2などインスリン分泌に欠く事の出来ないタンパク質の産生を促したり、膵β細胞の機能保持に重要なタンパク質が次々に産生する。ところが、酸化ストレスによって、このPDX-1が核内から追い出されると、膵β細胞の分化・増殖が止まることになる。膵β細胞がこのような状態の時に常時酸化ストレスに曝され続けると、細胞のアポトーシスが生じて消失していくことになる。

極めて興味あることにインクレチンは、膵β細胞内においてcyclic AMPを産生するために、膵β細胞の保護作用、増殖促進作用を示す(下図)GLP-1あるいはGIPによって産生されたcyclic AMPはプロテインキナーゼA (PKA)を活性化し、PKACREB cyclic AMP応答タンパク質)を活性化することによってアポトーシスを誘発するカスパーゼ3(caspase 3)を抑制し、膵β細胞の死が抑制されることになる。また、プロテインキナーゼA (PKA)は、MAPキナーゼなどを活性化して膵β細胞の分化・増殖を促進する。一方、プロテインキナーゼA (PKA)は、CREB cyclic AMP応答タンパク質)を活性化して、IRS2の発現を促進し、PI3KAktを介して、PDX-1 (pancreatic duodenal homeobox-1)を活性化して膵β細胞の分化・増殖を促進する。

この点は日本人の糖尿病患者さんにとって、極めて重要な点である。糖尿病の基礎知識の項で触れたように、日本人のインスリン分泌は欧米人と比較して約半分程度である。膵β細胞が少ない点や、膵β細胞におけるKチャネルが遺伝的に変化しているために基礎インスリン分泌が少なくなっている。2型糖尿病患者さんでは、初期にインスリン抵抗性による代償性の高インスリン血症が見られるが、その後、膵β細胞が疲弊して細胞数も減少してくる。このような状態の時、膵β細胞を保護するような薬物を投与すると、劇的な効果が期待できる。現在、DPP-IV阻害薬として、シタグリブチン、ビルダグリプチンなどの新薬が開発され、欧米では既に販売されており、日本でもまもなく販売されるはずである。

なお、GLP-1GIPは、いずれもインスリン分泌を促進するが、少し作用が異なっている。GLP-1は、インスリン分泌促進作用、膵臓β細胞増殖作用、膵β細胞死抑制作用、グルカゴン分泌抑制作用、胃排泄能抑制作用、中枢性食欲抑制作用を示す。GIPは、インスリン分泌促進作用、膵臓β細胞増殖作用、膵β細胞死抑制作用を示すと共に、脂肪細胞に作用して脂肪の取り込みを促進し、肥満を誘発する作用を示す。欧米人はGIPの基礎分泌が多いことから、欧米人の肥満はこのGIPによる脂肪細胞の肥大によるものではないかと云う興味ある説もある。

 以下、膵βB)細胞、αA)細胞、D細胞のインスリン分泌、グルカゴン分泌作用についてまとめる。この図では、GLP-1が膵βB)細胞及びαA)細胞に対する効果が加えられている。

GLP-1受容体作動薬】

 GLP-1DPP-IVによって分解され、血中半減期は5分程度であることから、このDPP-IVを阻害して血中のインクレチン濃度を上げるとインスリン分泌が増加するだろうと云う概念でDPP-IV阻害薬が開発されたことは上記した。現在は、GLP-1受容体に結合する薬物(作動薬;アゴニスト)も開発されている。GLP-1受容体作動薬として、日本イーライリリーはエキセナチドを、ノボルディスクはリラグルチドをそれぞれ承認申請している。これらの新規薬剤は、体内の血糖値に応じて作用し、高血糖の時にのみ膵臓からのインスリン分泌を促進するため、インスリン治療に比べて低血糖発現率が低いと言われている。また、いずれも体重減少や膵β細胞の保護作用を示すことも報告されている。



文責:鎌田勝雄



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