糖尿病態時には比較的早期に痛覚感受性の亢進により有痛性糖尿病性神経障害が認められ、一方で糖尿病の罹病年数と共に神経組織の変性が進行すると痛みに対する感受性は薄れ逆に痛覚が鈍麻するとの報告がされています。現在までに当教室ではT型糖尿病モデルであるストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスにおいて、高血糖状態の急性期では、熱刺激に対する痛覚受容閾値の低下、すなわち痛覚過敏が認められることを報告し、それに関与する種々の因子を解明しています。しかしながら、臨床においては急性期の痛覚過敏に対して、Na+ channel blocker であるメキシレチンが唯一その治療薬として承認されているのが現状であります。一方で、我々はストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスにおいて高血糖の慢性化に伴い熱刺激に対する痛覚受容閾値は増大、すなわち痛覚鈍麻が認められる結果を得ています。さらに臨床におきまして痛覚鈍麻に対し有効性を示す治療薬は明らかにされていません。
以上のことから当教室では、糖尿病態時における痛覚過敏、痛覚鈍麻などを含めた痛覚伝達異常に対する治療薬の開発を目的として実験を行っている。


Tail-flick テスト

 熱刺激としてプロジェクターランプによる輻射熱をマウスやラットの尾に与え、尾を払いのけるなどの逃避反応を起こすまでの潜時を測定する試験法です。
 糖尿病発症 2 週間後のマウスは熱刺激に対する感受性が亢進しており対照群マウスに比べ短い反応潜時を示します。



Hot-plate テスト

 熱せられた板の上に動物を置き、後肢をなめる、飛び上がったりするなど上位中枢を介した逃避行動に注目し、これらの行動が起こるまでの潜時を測定します。



Formalin テスト

 動物の足跡皮下にホルマリンという化学物質を投与すると、体を舐める、後肢を振り回す、といった疼痛行動が誘発されます。ホルマリン投与、0-5 分を第一相、5-30分を第二相とした疼痛行動が認められ、第一相の疼痛行動には脊髄での substance P などの痛覚伝達物質が、第二相にはprostaglandin などの炎症性メディエーターが関与していることが報告されています。当教室では糖尿病マウスでは対照群 (正常マウス) に対し、第一相の疼痛行動が有意に増強し、第二相の疼痛行動が有意に減弱していることを報告しています。

 モルヒネ等のオピオイドによる鎮痛効果が見られにくい慢性疼痛として、神経因性疼痛が報告されています。神経因性疼痛患者では、痛覚過敏や有害でない刺激に対する過敏反応であるアロディニアが共通して見られることが知られています。この疼痛メカニズムを解明するために様々な神経因性疼痛モデルを用いた研究が行われています。



Paw withdrawal テスト

 坐骨神経結さつなどを施した神経損傷モデル動物を薄いガラス板上の箱の中に入れ、ガラス板の下から結さつした側の後肢に熱刺激を加え、逃避反応を示すまでの反応潜時を測定することにより、熱刺激に対する痛覚過敏反応を評価します。



von Frey 式痛覚測定装置

 この装置では、先ほどと同様、神経損傷モデル動物の結さつした側の後肢に正常動物では反応を示さない非侵害刺激を与え、これに対する逃避反応を起こした時の閾値を測定することにより、神経損傷によるアロディニアの有無およびアロディニアに対する薬物の有効性を評価できます。


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